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その瞬間、気絶しそうになったという 

あの女の顔が、廊下の窓にべったりと張り付いていたのだという 

ひーぃぃいいいいーーー 

ついに見つかった 

女の両手が窓枠に掛けられ、(もうだめだ……)と体験者が絶望した瞬間だった 

ドン! シャーーーン!! 

物凄い音と金属音が聞こえ、その音に頭を蹴飛ばされるようにして、

体験者の体に自由が戻ったのだという 

同時に、窓に張り付いたワンピースの女でさえもが、ビクッと見を震わせたのがはっきりと見えた

ドン! シャーーーン!! 

またもう一度あの金属音が聞こえた瞬間、今度は低い男性の声で読経が響き始めたという 

ふと気がつくと、さっきは見えなかったはずのあの女の肩が見えて、体験者は目を剥いた 

(縮んでる……) 

体験者はそう思ったという 

ワンピースの女が窓から離れ、再びフラフラと非常扉の方に歩き出すのが見えた 

誰かが助けに来てくれた。

そう思うと急に力が湧いてきて、体験者は布団から飛び出し、廊下を覗いてみた 

そこに立っていたのは、半円形の笠を被ったお坊さんだったという 
 
顔は笠で見えず、身なりこそ女と同じように汚れていたが、手には立派な錫杖を持っていた

そのお坊さんが錫杖の先を床に振り下ろすたび、

ドン! シャーーーン!! 
と凄い金属音が鳴るのだという 

すると、あの女がそのお坊さんに引き寄せられるようにしてフラフラと歩き出した

逃げ出すなら今しかない。

体験者は慌てて荷物をまとめたバッグを持ち、

ドアをそっと開けて廊下に出た 

見ると、あのお坊さんを見下ろすようにして、

あの白いワンピースの女がこちらに背を向けて立っていた 

化物のように巨大な見下ろされているお坊さんは、それでも唱える読経には全く乱れがなかったという 

(このお坊さんは強い、あの女をきっと退治してくれる――) 

急に勇気と安心感が湧いてきた女性は、部屋を飛び出して非常階段に走ったという 

最後に体験者が背後を振り返ると、そのお坊さんに射すくめられ、微動だにしないあの白い女の姿があった 

ドン! シャーーーン!! 

ひーぃぃいいいいーーー…… 

お坊さんが錫杖を床に叩き付けるたびに、女の方がビクッと震え、

その度に見上げるように高かった女の身長が縮んでゆく 

間違いなかった。お坊さんが錫杖を鳴らす度、女は小さく小さく、どんどんと縮んでいっていたのだ

もういい、これは最後まで見てはいけないと、体験者はアパートを飛び出した 

アパートを離れ、必死に走っていると、不意に体が軽くなり、もう大丈夫だという安心感が全身を弛緩させたという 

ドン! シャーーーン!! 

ふとアパートを振り返ると、あのお坊さんの錫杖の音が小さく聞こえたという 

ひーぃぃーー…… 

もう悲鳴とも言えないほど小さくなったあの女の声が最後に聞こえた瞬間、 

何故か点いていたアパートの電気がフッと消えるのが見えたという 

そのまま体験者は友人の家に転がり込み、今しがた起こったことを説明したという 

「怖いからやめて!」と途中で友人に話を遮られたが、それが却って、体験者に奇妙な安心を覚えさせたという 

そのおかげでその会社をやめる決心がついた体験者は、ほどなくして会社を退職し、

今は東京で暮らしているという