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彼が幼い娘さんをドライブに連れて行った時のことだ。 
山頂に造られた公園に車を停め、そこの遊具で遊んでいた。 
夕方になり、そろそろ帰ろうかと考え始めた頃合。 

先程まで近くにいた筈の娘がいない。 
辺りを見回すと、公園の外れで見覚えある小さな姿がしゃがんでいた。 
そこにある石碑の前で、何やら地面に落書きしている様子だ。 
「帰るぞー」近よりながら、そう声を掛ける。 

娘は立ち上がると、石碑に話し掛けた。 
「また今度遊ぼうね!」 

飛び付いてきた娘を抱き上げ「誰に挨拶したの?」と尋ねる。 
「あそこにいる子たち!」 
娘がそう嬉しそうに指差した碑の前には、誰の姿も見えなかった。 

「父さん見えないの? ほら、みんな手を振ってるよ」 
そんなことを言われても、やはり彼には何も見えない。 
しかし娘は石碑に向かい、元気良く手を振り続けている。 
娘さんを抱いたまま、逃げるようにそこを後にしたという。 

気になったので、後で少し調べてみた。 
その石碑のあった付近は、整備される前は無縁墓地だったらしい。 
「だからね、あれ以来あそこには連れて行ってないんだ。 
 神経質だとは思うんだけど、父親としてはね」 
そう言って彼は苦笑していた。