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うちの弟はちょっと変わった子だった。 
頭はいいんだが変な事をよくいう変わり者。 
誰もいない筈の教室の隅を怯えながら指差して「大きな狐がいる」 

空き家の窓を指差して笑いながら「見て見て、変なおじさんがこっちを見て笑ってる」 
など不思議な事ばかり言う子で同学年のクラスの誰からも相手されなくなっていた。 
まぁ田舎のジジババには人気があるみたいで、いつもお菓子を大量に持ち帰ってた。 
その大半を俺が取り上げてた訳だが。 

子供の頃、俺と弟の2人で田舎にある水車小屋に遊びに行った事がある。 
その水車小屋は実家から少し離れており、滅多に人も通らなく「隠れ家」として当時の俺は最適だと思っていたので 
その下見も兼ね、自転車でそこまで行った訳だ。 
泣いて嫌がる弟だったが当時の俺は最大限に兄の権力を利用し無理矢理引っ張り出した。

夏の日差しが眩しく、遠くに見える入道雲。 
汗だくになりながら弟を後ろに乗せ林道を自転車で駆け回る。 
いくつかめの地蔵を曲がった所に目的の水車小屋はあるんだが、地蔵の前で急に弟が 
「おにぃ、ここはダメだよ。お地蔵様が僕達を必死に止めようとしてくれてるよ。」 
うっさいわボケ、とお地蔵様に蹴りを入れてペダルを漕ぎ出したんだが、 
その時の弟のあの顔はちょっと忘れる事が出来ない。俺はなんて事をしたんだろうか。 

とにかく俺たちは水車小屋に到着し、自転車で震える弟を無視して俺は隠れ家たるかどうかを調べる事にした。 
水車小屋は長い間使われていないためか木は所々腐っており、中は異様な程きついゴムの匂い。 
さらにはムカデや蜘蛛といった先住民も多く絶望感に打ちひしがれていると、外から 
「おにぃ!」 
という必死な叫び声が聞こえて、俺は慌てて小屋から脱出した。

外に出て見ると弟が目を見開いて「後ろ後ろ!」と指を指してくる。 
後ろを見たがなにも見えず、少しイラッと来たので 
弟を脅かそうと大声で「うわぁぁぁっ!」っと驚いたように叫びながら弟の方に走りよってみた。 
またがった自転車ごとひっくり返る弟。 
それを見て笑う馬鹿兄。 
俺にとっての問題は、すぐ体勢を整えまだ乗れない筈の自転車を漕いで全力で弟が一人で帰って行った事だった。 

その日の夕方、家で布団に包まって出てこようとしない弟に昼間なにを見たかを聞いたのだが、 
「おにぃの背中に黒い女の人がおぶさってた」という。 
勿論俺は見ていないし信じてもいなかった。 
そんな事より昼間の一件で父親に殴られた頭の痛みこそがリアルな恐怖だった。

恐らく俺が見てる世界は弟が見えてる世界と違うのだろう。 
大人になった今はっきり言える事だ。 
それは「不幸」なんだ、と。 
この弟に関わる不思議な体験はまだまだ今後語っていくつもりだが、 
俺という馬鹿な兄のせいもあり、後味の良くない物になると思う。 

この世には科学では解明出来ない不思議な事がある。 
なぜならホラ、弟はなにも言ってないのに、その「黒い女」が髪の長い黒いワンピースの色白の女だと想像してるだろう? 
えっ?さらに黒い帽子を被ってるって?なにそれ怖い。 
布団の中で弟はこうも言った。 
「この話は絶対に他の人にはしてはいけないよ。アレは多分言葉でうつっていく物だから。」とね。 

これは余談だが、どこぞのアホがあの水車小屋で焚き火したらしく、もう跡形も無い。