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うちの弟はちょっと変わっている。 
他所の家の葬式で急に「~と~がうわきしてる」と大声で言ってうちら一家が追い出されたり、 なにもない教室の隅でなにかに給食の残りをあげようとしてたり、 
とにかくその行動は常人の目には奇異に映る。 
だが、頭がよくそれ以外の受け答えはしっかりしていたのでさらに奇異に見えた。 
兄の俺でさえ時々頭の良さに嫉妬して気持ち悪くなるほどに。 
弟がそれらが原因で同学年の子らに無視されるようになったのは必然だったのかもしれない。 

ある冬の事だ。 
豪雪地帯でもあるうちの田舎は冬になるととにかく寒い。 
寝る前に風邪を引いた弟を介抱しようと嫌がる弟の首にネギを巻きつけようとしてた時、話題を逸らすためか弟が言った。 
「夜中に雪の音を聞いた事ってある?」 
そんな音は昼間にすら聞いた事が無い。 
「ほら、聞こえない?今も聞こえるよ、とん、とんって」 
正直な話、熱に脳がやられてると焦ったがいつもの笑えないギャグでネギを回避したかったのだろうと悟った俺は 
話もろくに聞かずに弟の首にネギを2本巻いた。

その日の深夜、異常に焦った弟に揺すり起こされて 
何事かと驚いていたら「雪の音が家の中からする!」と涙目で首にネギを巻きつけた弟がいた。 
そんな事で起こされたのかと、苛立ちを覚え 
大丈夫だよ、雪の子供が増えるかもしれないから部屋から出るなよと雑に答えたが 
納得しない弟に起こされ続けた。 
「音が近づいてくる!おにぃ!」と必死な弟だったが 
俺は無視し続けた。 
音の正体はとうちゃんとかぁちゃんだよとまどろみの中思っていたが説明もメンドクサイので揺すられる事にも慣れ始めた俺はそのまま眠りに落ちた。 

多分その10分後くらいだろう。 
耳をつんざくかのような叫び声。 
俺の耳元で起きたそれは声変わりのしてない弟の叫ぶ声。 
その叫び声に俺は勿論、両親やじいちゃんばあちゃんまでが 
何事かと飛び起き俺の部屋に集まってきた。

俺の布団で白目向いて倒れてる弟。 
心配してるのか恐怖してるのかわからない無表情の顔が鏡で見えた。 
致命的だったのは俺の布団で首にネギを巻いて倒れてる弟の姿だった訳で、また俺は父親にぶん殴られた。 

弟が意識を取り戻したのは父の車で病院に向かう途中で、 
雪のせいで結局帰りは朝になっていた。 
だがこんな事は初めてではない。夜中に弟が叫び声をあげて気を失うのは何度かあった事なのだ。 
母親はひたすら泣き、じいちゃんばぁちゃんが数珠を握り締め泣きながら祈っている光景はもう既に何度目だったろうか。 
当然俺も布団の中で弟の心配をしながら眠っていた。

弟は気を失う前の事はよく覚えてないという。 
ただ雪の音がすぐ耳元で鳴ったのは覚えていたみたいだ。 
ネギの事も喋られ今度は母親にひっぱたかれた。 

そうだ、一つ言っておかなきゃならない事があった。 
当時の俺の部屋、鏡なんて一つも無かったんだよ。 
まぁ些細な問題だよな。 
窓ガラスだったのかもしれないしね。 

後日の話だが、弟は俺が言っていた現場を目撃したらしい。ご愁傷様である。