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おまえらも知ってる有名企業の人で、イニシャルからHさんにしよう。
Hさんは学生時代「ワンゲル」に所属していた。

11月の中頃、初心者も含め7人で「雲取山縦走」をやった。
奥多摩から上がるコースで、日帰りの、そんなに難易度の高くないものだったそうだ。
ところが途中で霧にまかれ、気温は下がるは、まつげに雫がたまってうっとおしいは、ベタベタぬれて気持ち悪いは、なんか気は滅入るはで、とにかく雲取山山荘まで行って休憩ということになった。

当時はみんな30キロ近くをしょっているから、こういう場合の経験や気力・体力のばらつきはしょうがないのだが、Hさんはリーダーだったので、前に行ったり後ろに付いたりしながら、7人をまとめ上げた。
すると、どうも登山者が1人、10~15メートルくらい後を付いてくる気がする。
霧はじっとしてはいず流れるから、その霧の間に間にチラリと姿もみえる。

7人を止めて2回ほど待ってやったのだが、来ない。

集団に入るのはイヤだけど、1人もイヤってヤツもいるので、ご自由にどうぞって感じで山荘を目指した。
雲取山山荘はピークから200メートルくらい下ったところにある。
Hさんは下りに入ってからもその登山者が付いてきていることを確認していた。
山荘は時期的にすいていた。

ガヤガヤと荷物をおろしたりするうちに、誰言うともなく「あれ、アイツどーした?」となった。

後ろにいた登山者が来ない。
山荘を通過して、次を目指したのだろうか?
Hさんは一応、山荘のおっさんに話した。

おっさんは「一人、置いていかれて泣いてるんじゃないか」ってな軽口を叩いて、ちょっと探しに出てくれた。
Hさんともう一人がいっしょに出かけた。
だが、いるはずの登山者はいなかった。
念のため避難小屋のあたりまでもどって探したが姿はなかった。


霧の中、雲取山山荘の直前まで付いてきたあの登山者は誰だったのか?


Hさんはあとで、雲取山荘まで付いてきた登山者について先輩に聞いてみた。
先輩が言うには、
「もう、ずいぶん昔に8人のパーティがいたんだが、悪天候にみまわれて、1人が行方不明になった。死体も出ず、月日がたつにつれて、その遭難者がどこで行方不明になったかも忘れ去られた。だから、奥多摩山塊を7人で登ってはいけない。
7人だと必ずその遭難者が後に付いてきて、8人のパーティになろうとする。
そして、仲間の1人を遭難させる。
つまり、遭難者はそいつを自分の身代わりとして行方不明にし、自分は7人パーティの仲間として下山しようとする」
のだそうだ。