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明治の頃、山で乞食達が四、五軒の粗末な小屋を建てて集落にした
近くの村の人々は当初気にもとめていなかったが
元軍人らしい上品な人物が身をやつしてそこに住むようになったというので
噂くらいしか娯楽のない田舎のこと、皆かわるがわる様子を見に来るようになった

その上品な青年は東北の名家の生まれだったが13歳で父を亡くし
苦労しながら勉強して軍人になり品行方正におつとめした
だが高額な治療費がかかる病気の母を抱えては決して贅沢もせず、態度も謙虚で
こつこつと小さな事から貯金しては母の容体が良くなるように使う親孝行者
……という噂だったが本人は語らないので本当かどうかわからない
ただ彼と一緒に乞食の集落に来た痩せ細った中年女性が、
乞食の集落で彼と一緒に暮らしているのも確か

若くてイケメンで生まれ育ちが良くて倹約家ででも使うところはわかっていて
親孝行で気配りもできるというので、近くの村の若い娘達はキャーキャー
それでも青年は集落の乞食達と仲良く近所づきあいしながら静かに生活していた

が、ある時都会風の身なりをした派手な女を連れてきて集落でドンチャン騒ぎ
奥で寝ていた中年女性(母?)が幽鬼のようにふらふらとその場に出てきて
彼等を怒鳴りつけるという一件があった

その後青年は消息を断ち、中年女性は紐で首を締められた状態で発見された
都会から来て検分した警察は、彼女が母ではなく年上の情婦で
誤って殺されてしまったのだろうと推測した

しかし村のある老人の推測は違った 青年は本当に親孝行で真面目だったが
たちの悪い女にひっかかって病気の母を捨てた
近所づきあいで青年に親切にしてもらった乞食達はその恩も忘れて
身寄りのない病人の面倒を見たくないので皆で母を責めて首をくくらせたのだろう