horror415_TP_V

風邪をひいて高熱が出る夜には、悪夢にうなされてパニック状態になる。
悪夢にうなされて飛び起きた私は、近くにいる誰かにしがみついてさめざめと泣く
そしてしばらくすると落ち着いて、何事もなかったかのように布団に戻る。

その時の記憶は、視覚的には残っているが、自分が何を口走っているのかははっきりと覚えていないし、その時の自分は遠くからその行動を他人事のように見ていて、まるで自分をコントロールできないでいる。
小さな子供ならありえる話だろう。

しかし私の場合、最後にこの発作(?)が起こったのは大学2年の時だ。
私の隣には、看病してくれていたその時の彼女が寝ていて、彼女にしがみついて泣いた。彼女とは、それとは関係なくその後別れたが、今でも恥ずかしい思い出として残っている。
他にも、中学生の時にスキー合宿の宿で具合が悪くなって、弟に抱きついて泣いたり、高校生の時に両親の寝室まで行って泣いたこともある。
とにかく、この悪夢と、その後の発作的行動は、高熱での睡眠時に起こる。
後で人に聞くと、発作時の私はパニック状態だが、一応の会話はできていて、意思の疎通は可能らしい。言っている言葉は
「たくさんのネズミが這い回ってる。もうすぐどっか行くと思う」
「連れて行かれる。ごめん、ちょっとこのままで」
「食べられる」
「怒られる」
「鬼が近くに来てる」
など多岐に渡る。
夢の内容を文章で説明するのが非常に難しいが、以下に記すのでなんとか読み取ってほしい。

・別の夢から切り替わって始まる。
・私は容器に入れられて、浮いている。
・容器はピラミッド型で、透明である。
・外の景色は様々。寝ている部屋だったり、嵐の海岸だったり、飛行場だったり。
・容器が、中にいる私ごとコピーされ、頂点を向けて上下に並ぶ。例えて言うと、砂の流れが中央で完全に遮断された砂時計の上下に、二人の私が入っている状態になる。上の方の私は逆さ向きで、頭で体を支えている。
・上のピラミッドが切り離され、回転しながら上昇する。回転速度がどんどん上がる。
・この際、私の意識は下で座っている自分と、上で頭逆立ち回転をしている自分とのあいだを行ったり来たりする。
・猛烈な喪失感と絶望感。

だいたいこのような内容だ。
夢の内容と、私の口走る言葉が、全然関連がないことは、私も妙だとは思う。
これで話の総論は終わりだが、何度もした発作の中で一番印象に残っている話をする。

中学生の頃。風邪で寝込んだ夜。
例の悪夢を見て飛び起きたのが11時頃だと思う。
はじめに言うが、このあとの話は夢オチではない。確かにこの時点で私は覚醒した。

とにかく、この夢を見たあとの思考は自分でも突っ込みたくなるほど意味不明で、その時は「あれ、死なないといけないや、どうしよどうしよ」という気持ちだった。
学校の先生に授業で指名されて、答えを黒板に書かないといけない、みたいな感じで、「死なないといけない」と思った。
もちろん同時に、「死にたくない」とも思っている。

でもそうしなきゃいけないから、私は子供部屋の中を5分くらいおろおろ歩き回って、そのあとドアを開けた。
子供部屋は二階なので、すぐに階段が目に入る。

ここから落ちたら死ねるかな。

死にたくないんだけど、そうしなきゃいけないと思っているから階段の前に立つ。
で、マットに飛び込み前転するみたいに手を後ろに振って……

飛ばなきゃ、と思ったけど飛べない。そりゃ当然飛べない。
階段の一段目に座り込んで、私は泣いた。5分くらい。
すると、階段の下を祖母が通りかかった。
私の家は大家族で、祖父母も住んでいるから、これはなんの不思議もない。
「どうしたの?」
祖母は真っ暗な階段の上で座っている私を見て驚いていた。
「べ、べつに」
もちろん死のうとしていたことは言えない。いけないことだと分かっているし、何より自分が死にたくないのだ。説明のしようがない。
そこから二言、三言あって、私はなんとか中学生としての体面を守りつつ、祖母と一緒に寝る約束をとりつけて、祖母の隣に布団を敷いてもらった。
私が布団に入ったあと、祖母は私の肩にぽん、と手を当てて
「洗い物があるから寝てなさい」
と言った。

祖母がいなくなるのは心細かったが、肩に手を触れられた時に、私のパニック状態が収まった。意識はまだどこか他人事のようで、思考は働かないが、口は動いた。
「今日の夜、俺が布団から出ていったりしたら、止めてね」
祖母は不思議がっていた。
なんで?とも聞かれたような気がするが、「自殺するかもしれないから」とは言えず、なんとなくごまかした。しかし、しっかり念を押した。
「夜が明けるまではやばい。4時頃もありえるからね。気をつけてよ」
自分が、自分の意志で言った言葉のはずなのだが、夜が明けるまで、というのがどこから来た設定なのか自分でもわからなかった。ただし、4時というのは多分深い意味はないと思う。その頃は寝てるでしょ?それでも止めてね、というつもりで言った。

結果として、何事もなく私は次の日に快眠から目覚めた。

ここで意識が完全に普段の状態に戻って、怖くなると同時に自分の奇行が恥ずかしくなった。
祖母に確認しても記憶間違いは無いようだし、目覚めたのはもちろん祖母布団の横。
まあ私が起きた時にはもう祖母は起きていて、いなかったが。

ここ2、3回は、風邪をひいてもこの現象は起きていない。
しかし、今は一人暮らしだ。もし次に風邪をひいた時、またこの現象が起きたら。

今度は誰も止めてくれない。

もういい大人だし、大丈夫だろうとは思うが、なんとも薄ら寒い。
気を強く持たないと、と思って、今日も気合入れて寝ようと思う。