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小学生のころ、夏休みの出来事。
まだゲーム機なんてものがなかった時代、
田舎のガキの夏の遊びといったら川で泳いだり、山で虫捕りすることだった。

特に、おれたちは水牛と呼んでた大型のノコギリクワガタは人気で、
こいつを持っているのは一種のステータスだった(せいぜいひと夏だけど)。

その日もおれは虫捕りに出掛けた。
だが、なぜか絶不調で、雑魚(カブトムシ♀、クワガタ♀、カナブン)すら見つけられない。
ちなみに、おれはこの手の雑魚は、たとえ見つけてもめったに手を出さないし、
たまに気まぐれで捕まえたときは、クモにあげることにしていた。

クモは見た目は気色悪いが、人間や作物の害になる虫を捕食してくれる、農家にとっては益虫だ。
おれは、クモを殺生してはいけないと教えられて育った。
んで、雑魚をとったら、近所に網を張ってるクモの巣に引っ掛けて、
エサとしてあげることにしていたのだ。ジョロウグモのことが多かった。

んで、話は戻るけど、そんな雑魚すら見つからない。
こういうときは意地になるもので、徐々に山の奥へ、奥へと進んでいった。

んで、話は戻るけど、そんな雑魚すら見つからない。
こういうときは意地になるもので、徐々に山の奥へ、奥へと進んでいった。

周りに田畑がない、つまり、地元の人間でもめったに近づかない場所まできたとき、
うっそうとした茂みを見つけた。
ためらわず中に入る。甘いような臭いような独特の枯葉と草木の混じった香がする。

と、クヌギ発見、経験を重ねた田舎のガキの勘で、獲物のにおいを嗅ぎつけた。
こういうとき「木を揺すると落ちてくる」なんて書いてるサイトもあるが、
その方法は実戦向きではない。
ガキが揺すったぐらいで落ちてくるのは雑魚のことが多いし、
下手すれば拾いに行けない斜面などに落ちてしまう。
最悪、ひそんでるクマバチなどを刺激する。

おれは慎重に観察を始めた。と、大物発見!見まごうことなき水牛だ。
水牛は、まるで周囲に他の虫を寄せ付けないような威厳をはなって、一匹そこにいた。
なんとか手の届く位置だ。慎重に手を伸ばし、背中をつかむ。
木からひっべがそうとするが、力強くふんばってる。
おれは無理に引っ張って足を引きちぎらないよう慎重に力を込めた。

大物ゲット!おれは惚れ惚れと獲物を眺めた。
こいつは、今まで見たこともないような立派な角を備えた超大物だ。
おれは興奮気味に空っぽの虫かごに獲物を収納した。

と、そのとき、にわかに風が吹き始め、晴れていたはずの天気が曇り始めた。
ざわざわざわと揺れる木の葉の音がする。
経験ある人も多いと思うが、山の中で木々がざわざわざわと揺らめいて曇りだすと、
人は本能的に不安を抱くものだ。
ガキだからなおのこと嫌な感じがする。

まさか、こいつを取ったせい?いやまさか。
嫌な予感はするものの、せっかくのお宝を手放す気にはなれない。
おれは帰路を急いだ。

雨こそ降らないが、風はますます強くなり、空は真っ暗だ。
遠くで雷の音まで聞こえだした。
おれは虫かごをたすきにかけ小走りで山を駆け下りる。
林道が見えてきた寸前、おれは足をすべらせ斜面をすべり落ちた。
あっという間もない。ここで死ぬんだ。本気でそう思った。

が、なんとか木の幹に引っかかって谷に落ちることは免れた。
しばらく木にしがみついてドキドキが収まるのを待つ。
四つん這いになって木をつかみ、足をひっかけ斜面を登り、やっと元の場所に戻ってきたとき、
初めて全身が震えだした。助かったのだ。

おれは、改めて斜面を見下ろした。
あの幹に引っかからなかったら、谷に落ちていただろう。
もちろん落ちたらただでは済まない。
そこで、おれは初めて気がついたんだ。
おれが引っかかった木の枝の間に、ジョロウグモの鮮やかな模様があることを。

おれは、水牛を逃がすと、今度は走らずに慎重に林道へ向かった。
すべては偶然なのかもしれない。
でも、あの水牛は、森の主のような存在だったのではないか?
なのに捕まえてしまったから何かが怒ったのだ。
だけど、ジョロウグモが助けてくれたんだと、そんな気がするのである。