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去年の11月の三連休。
まだ廃墟探索経験の無い会社の女の子を連れて廃墟めぐりをした。
松尾鉱山に尾去沢鉱山。定番どころだね。
一泊二日、泊まるところは現地で決めるって事で
付き合っては居なかったが、もしかしたらという狙いもあった。

知ってる人がいればわかると思うけど、松尾から尾去沢にかけてはほとんど宿が無い。
三連休初日で予約無しで入れる宿なんて潰れかけみたいなところでも無いだろう。
そうしたらラブホとかになるよね。なんてね。ラブホのネットでの下調べもばっちりだった。

というわけで、昼すぎに松尾鉱山に到着してざっと探索後、尾去沢に向けて出発。
途中、やっぱり暗くなりだして宿を探そうってなった。
俺が運転して彼女が宿を探して電話をかける。
想定通り、電話をかけてもどこも満室。
と思ったら想定外に「素泊まりならご用意できます」って宿が一つだけ見つかった。
「空き二部屋あります」とも。俺残念。すごく残念。下調べ無駄。

場所は八幡平の駅から車で30分ほどの場所。
到着すると、それほど悪い感じじゃない和風旅館。
大きめの玄関に入りフロントで電話したものだと伝えると部屋に通された。
彼女とは隣部屋だったからまだチャンスはありそうだと思いつつ
部屋にはいると、ちょっと殺風景ながら至って普通の和室なお部屋。嫌な雰囲気はなかった。

荷物をおいて、しばらくゆっくりしてると
コンコンとノックされて彼女が「部屋が変なのでちょっと来てほしい」と怪訝な顔でやって来た。
ん?なんかおかしいのかな?と思って、着いて行ってみる
部屋に入った瞬間につ~んとした変な匂い。一瞬で消えたけど。
なんだろう、いわゆる「すえた臭い」って奴かな?
それになんか、違う。空気が。部屋の明かりが暗いとかそういうわけでもないのに
なぜか薄暗い。

それでも彼女が中に促すので部屋の奥に入ってみると、まあ設備は自分の部屋と違いはない。
で、彼女が「そこのふすまの中」って言って指をさす。
え?御札的なものが?と思って開いてみると下段には布団がきちんとしまわれていて、
上段には茶色の古い布団袋がでーんと置かれてる。

なんだろこれ?と思って少し紐解いて中を見てみると様々な子供服が見える。
え?なんだこれ。気持ち悪っ。と思って
しばらくして館の説明にやって来た従業員さんに「これ何ですか?」って聞くと
ここの女将の子供の服をまとめてあるんだって言うんだ。
客室に置くなよーって思いつつ、まあこじんまりとした旅館だし邪魔でも無いしそんなに怒ることもないかと思い。
でも、彼女が気味悪がるんで俺と部屋を交換した。
ま、なんかあったら彼女の部屋に転がり込む口実にもなるし、なんてちょっと期待しつつw

さて、飯は途中で買ったコンビニ飯を彼女の部屋で一緒に食べてビール缶を開けて。
じゃあ、風呂に入って寝ちゃおうって事になって、支度しに戻ってみたら
やっぱり入った瞬間だけつ~んって異臭がする。一瞬だけ。変だなあと思った。
で、部屋に入ると何かおかしい。さっきとは違う違和感。
ものが無くなったり動いたりしたわけではないんだけど、部屋が斜めってる?
平衡感覚がなくなるような感じ。少し斜めに傾いてる。片足に力入れてる感じ。
酔ってるせいかと思ったけど、そんなに飲んじゃいない。

まあいいや、と思って浴衣とタオルだけ持って部屋の外に出ると
既に廊下に立ってた彼女に「何ひとりごと言ってたの?」って言われた。
え。ひとりごとなんて言ってないんだけど。こわっ。普通にこわ。
少し不気味だったけど、まあ多分彼女の気のせいだろうと何も言わず。
「じゃ、風呂上がったら明日の予定確認するから声かけてね」って事でお互い男女別の風呂に向かった。

風呂は温泉が引かれてるようで結構気持ちいい。ちょうどいいぬるま湯具合に
誰も居なかったしちょっとウトウトしつつ長湯したんだわ。
風呂を出ると、彼女がロビー(?)の自販機の前で座って待機してた。
あれ?部屋に戻ってなかったんだ。と思って声をかけると
「風呂を出て部屋に戻る途中、俺の部屋から声や物音がするんで先に風呂から出てたんだと思って
ノックしても話し声は聞こえるけど反応は無くて
そうか、誰かと電話してるんだなあと思った。
しばらく廊下で待っても話が終わらないから仕方ないと思って自分の部屋に戻ってたら
すぐに女将さんが布団を敷きに来た。
お連れさんはお風呂ですか?って聞くからもう戻ってると思いますがって言ったら部屋には居らっしゃらなかったと言われて『え~?』って思って行って女将さんと覗いてみたら確かに居なくてびっくり。
怖くて部屋に居たくなくなって俺が戻ってくるまでここに来た」って
え?もしかして泥棒?と思って即座に部屋に戻る。
誰もいない。おかしいなあ。ロビーに戻ってそこに居た女将さんに
「だれかこなかったか」と聞くといいえと即答。
もう彼女は怖い怖い言いまくって、俺も怖くなってきてた。

結局、荷物はそのままに女将さんにお願いして彼女の部屋に2つ布団敷き直してもらって二人で彼女の部屋で寝た。
別々で寝てると怖いからと彼女が手を繋いで来る。
自分も手を絡める。手から腕に、腕から先にって
まあ晴れてお察しの事態になるわけだけど、
さて、いざコトに及ぼうとした時に隣の部屋からドンとかコンコンとか音がする。
そんなに大きな音ではないんだけど、さっきまでの事もあって二人共最中でも耳を澄ましてしまってさ。
集中できない。彼女も「ほら、声がする」なんて言い出して。

それで気分が高まってるからイライラしてきてさ。
これはもう絶対だれかいる。間違いない。いたずらに違いない。霊だとしても殴り飛ばしてやる。って気分になってきた。
飯時に犬に触るとおとなしい犬でも唸るようなもんだよ。

よし、怒鳴りこんでやるっと思って、でも相手に逃げられないように静かに部屋を出て、
元自分の部屋の扉をすーっと開ける。途端につーんって例の匂いが鼻を付く
と、同時に電気をつけてないまっくらな部屋の中から誰かがひたすら繰り返し何か言葉を発しているのが
はっきりと聞こえた。多分男の声、なんて言ってるのかはわからない。
すっと冷静になる。やばい、ここはやばい。ガチだわここ。
直ぐに部屋の扉を閉めて、廊下に逃げる。
どうしよう、今すぐ逃げたいけど荷物は部屋の中だ。
まずは彼女に出ることを伝えるために部屋に戻ると、彼女がすごい形相で座り込んで震えてる。
彼女が小さい声で「もう無理、出よう」って言う。いや荷物も服も何も準備出来てないから…
「いや、お願いだから出よう、ここもう居られない」って言って帯を手にしてささっと浴衣を着直して飛び出して行ってしまった。

なんなんだと思ったが、直ぐに荷物持って追いかけなきゃと思ってフロントに電話をかけて
「部屋がおかしいので、もう出たい。部屋に荷物が残ってるから出してくれないか」っと伝える。
特に事情を聞かれるわけでも文句を言われるわけでもなく「分かりました」って応答。
何か知ってるんだなあって思った。

直ぐにフロントから従業員2人が来たので、事情を話して自分と彼女の荷物を出してもらってロビー運んでもらうと、
彼女がうずくまるようにして座ってる。

自分が来たと気づくとのろのろと立ち上がって、「着替えてくる」とだけ言って風呂場の方に行った。
その間に支払いをしようとフロントで手続きをしようとすると
女将が来てお代は流石に取れないと、タダにしてもらった。
「ごめんなさいね。たまーに変な声や音がするって苦情を言われるんだけど、随分長い間ここで働いていても従業員も含め私達まったく聞いたことも見たこともないの。お祓いもしたこともあったんだけど…」って話をされた。
それで自分自身改めて考えてみると、霊の声とか音とか聞こえたのは初めての経験でさ。存在さえも疑ってた。
もしかしたら、何か説明可能な理由があるんじゃないか、
今思えば水の流れる音、風の音みたいのがそういうふうに聞こえてしまう事があるんじゃないかなんて冷静になって、
「そうですか、もしかしたら何か気のせいなのかもしれません。ご迷惑おかけします。」って答えた。

しばらくして彼女が戻ってきて、旅館を出た。外に出るとまっくら、20時過ぎだった。

しばらくして彼女が戻ってきて、旅館を出た。
外に出るとまっくら、20時過ぎだった。
車に乗り込んで少し落ち着ける場所に出て、一息入れてると黙ってた彼女が話し始めた。
「俺くんが隣に様子見に行った時ね。俺くんが出て扉を閉める直前にこっちを見てる女将の顔が見えたの」
「その顔、色が無かった。白黒写真みたいに平面に貼り付けたみたいにそれで目も真っ黒で宇宙人みたいだった」
逃げ出したかったけど、引き戸を開けるとそこに居そうで逃げれなかったって。
もちろん廊下に女将が居たり女将の白黒写真が貼ってあったら直ぐに俺が気づくはず。そんなのは無かった。
時間的にもまだ廊下は明るかったし。見落とすわけがない。
流石に生きてる女将の首が出てくるわけもなし、女将ってのは見間違いだとは思うけど
やっぱり本物の霊現象だったのかなと思ったよ。