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気のせいだったと思いたかったが、昼間見た顔は私の記憶にはっきりと残っていた。 

怖くて、その日は電気をつけたまま寝ることにした。 

朝方4時過ぎ、私はふと目をさました。 
電気が消えていた。 

入り口のあたりに人が立っていた。 

全身から汗が吹き出るのがわかった。 

体は動く。金縛りではない。 
恐怖のあまり、私は目をつぶった。 

ひたすら時間が過ぎるのを待った。 
何分経ったかわからない。私は意を決してもう一度目を開けた。 
人影は消えていた。 

私は急いで電気をつけて、部屋を見回した。 
特に変わった様子はなかった。 
恐る恐る入り口に近づいてみた。

何もないはず、安心を得るために確認したかった。 

私はショックのあまりそこに座り込んでしまった。 

人影があったあたりに小さな水溜りができていた。 

それは、そこに何者かがいたことを示す確かな証拠だった。 
私はしばらくボーっとしていた。 

なんでこんなことになったんだろう・・・そんな感情だった。 

女 :さみしかった・・・。 

耳元で、そう囁く声が聞こえた。 

女の声だった。自分の体がガタガタと震えるのがわかった。 
声にならない声をあげながら、私は親の寝室に走った。 

私 :人がいたの、人が出たの。怖い、怖い! 

多分、私はそんな感じで父にうったえたのだと思う。 

父は血相を変えて私の部屋に行ってくれた。 

母もすぐに目をさまして、私の手を握っていてくれた。

数分して父が戻ってきた。 

父 :大丈夫か?部屋には誰もいなくなっていたぞ。 
部屋もあらされてはいないみたいだったから、向こうも逃げたんじゃないか? 

父は、泥棒か何かだと思っていたのだと思う。 

私 :違うの、幽霊。女の幽霊。 

父 :幽霊?・・・バカなことを言ってるんじゃない。 

私 :ホントに出たの。声も聞こえたし。水溜りもできてた。 

全く信じようとしない父を連れて、私はもう一度部屋に行った。 
水溜りは残っていた。 

私 :ほら、これ。ここにいたの。 

父 :・・・風呂上りに濡れたままだったんじゃないのか? 

正直、よくわからなくなっていた。 

風呂上りの水滴ならそれでよかった。 

聞こえた声も、気のせいだったことにしたかった。 

私 :さわいでごめんなさい。 

父 :まあ、なにもなくてよかった。 

そう言うと、父は寝室へ戻っていった。 

私は部屋で寝る気にはなれず、リビングのソファーで横になった。
次の日、私はAに電話をした。 

AとBには特になにも起きなかったと言っていた。 
東京に帰った私はバイトを終えて帰宅した。 

多少迷いはあったけど、電気はつけて寝ることにした。 
その日はなかなか寝付けなかった。 

仕方なく、深夜のテレビショッピングを見ていた。 
ちょっと眠気を感じ始めたときだった。 

テレビのすぐ横に、女が立っていた。 

あまりに突然すぎた。 

女は微動だにせず、少し下を向いていた。 
ショートカット、おかっぱに近い髪型。 
服装はジーパンにTシャツ。 
顔は、前髪に隠れてほとんど見えなかった。 

私は女と対峙したまま身動きひとつとれずにいた。 
テレビショッピングの妙に明るい会話が部屋に流れていた。 

るタイミングで私が瞬きをした瞬間、女は消えていた。 
女がいたところには、やはり水溜りができていた。

私は部屋を飛び出すと、Aに電話をして助けを求めた。 

私 :A?遅くにごめん。あのね、幽霊が出たの。 
ホントなの。信じられないと思うけど。 

A :マジで言ってるの?今から行くよ。東京のアパート? 

私 :うん、でも、近くのコンビニに行くからそこに来て。 

Aは、私の家から車で30分程度のところに住んでいた。 

Aはすぐに来てくれた。起きたことを説明して、部屋を見てもらった。 

水溜りは残っていた。ふき取ろうとも思ったけど、気持ち悪くて触れなかった。 

A :お祓いだよな…。 

私 :うん、そうする。どこに言えば良いんだろう。 

A :このまえ名刺をくれた神主さんは? 

私 :ああ、そうか。何か知ってるのかも。 

私達は、近くのファミレスで朝が来るのを待った。
次の日の朝、Aが名刺にあった番号に電話をした。 

A :こんにちは…Hさんのお宅でしょうか? 
この前、○○島で会った学生です。実はちょっと困ったことになりまして… 

話はすぐについたようだった。今からでも来なさいと言われたらしい。 

まさか、2日でまた地元に帰ることになるとは思わなかった。 
Aが車で名刺の住所まで送ってくれた。 

午後2時過ぎ、Hさん(神主さん)のお宅を訪ねるとあの時の男の人が迎えてくれた。 

Hさんは普通の服装で、見た感じは優しい顔で小太りのおじさんだった。 

私は起きた事を正直に話した。洞窟の板をはがしてしまったことも伝えた。 

Hさん:ああ、そしたらまずはそれが先だ。ちょっとここで待っててくれるかな。 

そう言って、お茶を出すとすぐに家を出て行ってしまった。 
Aと私は状況が把握できないままそこで待っていた。

1時間以上たってHさんが戻ってきた。 

Hさん:うん、お待たせ。向こうはもう大丈夫だった。あとは君だね。 

A :すいません、あの洞窟はなんなんですか? 

Hさん:うん、それも合わせて説明するよ。聞いた方がスッキリするでしょ。 

そう言うと、次のようなことを教えてくれた。 

まず、私達の地元は東西を山に挟まれている。 
そして、それらの山はそれぞれ強い神様によって守られている。 

だから昔は、いろいろな霊とかそういったものは 
霊的に弱い私達の住む町を通り道のように使っていた。 

ところがある時、町に流れ込む川の増水を防ぐために治水工事を行って、さらに水の神様を祭る祠を川の上流に作ってしまった。 

その結果、通り抜けられなくなった霊が町に溜まるようになった。

そこで作られたのが、あの島の洞窟。正しくは祠。 

あそこで、霊の流れを切って町に入らないようにしたんだそうだ。 
ただ、

それで解決というわけにはいかなくて、今度は山を隔てた周りの町で病気とか悪いことが起きるようになった。

で、どうしたか。島の祠は封じて、川の上流の祠の場所を移動した。 

霊の流れは元に戻したということ。 

でも、封じたとはいえ島の祠は残ってしまった。 

霊を退ける力は残っていて、逆にそれを抑えているという変な状態。 

不安定な状態を作ったことで、その島のあたりによどみができるみたいに霊が溜まってしまうことがあるそうだった。 

Hさん曰く、西から流れてくる海流が島にぶつかって、西側に渦潮ができる様子を想像するとわかりやすいとのことだった。 

そして、私はその滞留していた霊を拾ってしまったんだろうといわれた。 

あの日、Hさんは海開き前の安全祈願をしていたのだけれど、 
そのために一時的に祠を開いてストレスを逃がすようなことをしたんだそうだ。

私達が板をはがしてしまったこと自体は、それほど大きな問題ではないと言われた。 

その時見えた白い顔についてはよくわからないとのことだった。 

板は、直したとはいえきちんと封印されていないと困るので、 
確認に行って来たのだそうだ。 

そして、本題。私に憑いている霊は祓えるのかということ。 

Hさん:まずは、やってみましょう。 

私 :あの、お金はかかるんですか? 

Hさん:ああ、半分は私のせいですから良いですよ。 

そう言うと、私は別室に通された。 
板の間に神棚の豪華版のようなものがあった。 
Hさんが着替えてすぐに戻ってきた。 

棒のさきに白い紙がついた例の道具を持っていた。 
何かぶつぶつ言いつつ私の前でそれを振っていた。 
しばらくするとHさんが、汗を滴らせながらこう言った。 

Hさん:供養する方法を考えましょう。 

よく意味がわからなかった。

Hさん:祓うこともできるかもしれませんが、鎮める方が間違いないと思います。 
推測ですが、この女性は山陰地方から流れてきています。 
多分○○のあたりだと思います。 
そこで、女性を供養する方法を考えましょう。 

A :祓えなかったんですか?詳しい場所がわからずに供養ってどうするんですか? 

Hさん:霊が出るのは怖いと思います。ただ、命に関わるような感じはしません。 
それならば、時間をかけてでも安全な方法が良くないですか? 

私 :お祓いは危険なんですか? 

Hさん:リスクはあると思います。 

私 :わかりました。山陰地方の○○に行けば良いんですね。 

A :え、ホントに行くのかよ。 

私 :だって、しょうがないじゃない。 

とりあえず、解決の糸口が見つかっただけで安心できた。 
何より、私にはほかにすがるものがなかった。 
次の日、私は山陰地方に向かう電車に乗っていた。