TSU82_sougen_TP_V

単独で入山中に、不思議な光景に出会した。 
行く手の繁みの中で男性が二人、藪漕ぎしながら歩いているのだが、 
ある程度進むとくるりと踵を返してから、元来た藪中を戻っていく。 
そのまま50メートルほど戻ると、そこでまた180度回転し、 
再びこちらへ向かって進んでくる。 

その二人組は、そんなことを何度も繰り返していたのだ。 
顰め面が見て取れるほどに近よってみたが、向こう側は彼のことが 
目に入らないようで、気が付きもしない様子。 

「あのー、何をしているんですか?」 

流石に気になってそう声を掛けると、吃驚した顔で立ち止まった。 
二人して安堵の息を吐きながら、こんなことを口に出す。 

「あぁ良かった、人に逢えた。 
 僕ら、実は昨日からずっと道に迷ってて・・・。 
 ここがどこかわかりますか?」 

「いや、あなた方、ずっとそこでグルグル行ったり来たりを繰り返していたんですけど?」 

そう指摘された二人は、彼にからかわれたものと思ったらしく、 
「何を言ってるんですかぁ」と苦笑しながらこちらに向かってきた。

いきなり、前を歩いていた方が立ち止まった。 
ギョッとした顔で足下を見つめている。 

「ここ・・・昨晩僕らがテントを張った場所だ。 
 このペグの痕、見覚えがある。 
 ・・・嘘だろ、ここから半日以上は歩いている筈だぞ」 

そう呟くと顔を上げ、あれ?っという表情になる。 

「何だ、ここ、○○峠に下りる途中道じゃないか!!」 

「・・・本当だ。今まで嫌と言うほど通っているのに。 
 どうして気が付かなかったんだろう?」 

どうやら後ろの男性も、現在地の特定が出来たらしい。 
二人して顔を見合わせて、頻りに首を傾げている。 

丁度、下りる先が同じだったので、彼も二人に
同行することにした。 
問題なく下山出来て、礼を言ってくる二人に別れを告げたの
だという。 
「あの二人組、揃って狐にでも騙されたのかね?」 
そんなことを考えたそうだ。 

しかしその三年後、彼もその藪で道に迷い、別の登山者に助けられた。 道を失ったのは、正にあの藪の中であったという。 

「・・・あそこの藪って、何かヤバいモノでも潜んでいるのかな・・・」 

以来、彼はそこの道を利用しないようにしているそうだ。