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彼の祖父はかつて猟師をしていたという。 
遊びに行った折に、色々と興味深い話を聞かせてくれた。 


「ある淵近くの河原で、連れと二人休んでた時の話だ。 
真夜中、その連れがいきなり暴れ始めよった。 
どうした!?って駆けよったら、身体の横に小柄な猿のようなモノが取り憑いてる。 
黒い手を伸ばして、連れの手首を握ってた。 
大慌てて突き飛ばしたんだが、そいつ今度は儂の腕を握ってきやがった。 握られた途端、視界が霞んで息が詰まってよ、もうパニック起こしまくったわ。 
目鼻口が、一気に水で溢れたんだな」 

「後で考えると、大方儂自身の涙や鼻水だったんだろうが、そん時は必死でそんなこと考えるどころじゃなかった。 儂にしてみりゃ、水の中に顔沈められたようなモンで、あん時はそのまま溺れ死ぬかと 本気でビビッたわい」 

「幸い、復活した連れが儂からそいつを引っぺがしてくれて、何とか息が吐けた。 二人がかりで焚き付けや棒ッキレを持って、死に物狂いで追いかけ回したよ。 
猿ほどの大きさしかなかったんじゃが、これがまたすばしっこくて、おまけに触られると こっちはたちまち溺れちまうときた。 
立ち向かうのにえらく苦労したよ」

「それでも何とか散々叩きまくって、ようやくそいつが逃げ出したんだ。 暗い河原をタタタッて走り去ってから、ドポーンと淵に飛び込む音がした。 それっきり静かになったんだが・・・とても淵を覗き込む気力が沸いてこなくてよ。 
二人揃って寝ずに朝まで過ごすことにした。 
火を起こすと、お互いあまりにも情けない顔してたんで、それでまた疲れたな。 儂も連れの奴も、涙と鼻水と涎を垂れ流しまくりのこぼしまくりだったから。 
それからはもう朝まで何も出て来んかった。 
日が昇ると、直ぐにそこを引き払ったわい」 

「話に聞くところの“川猿”とか“淵猿”って奴だったかもしれねえな。 
何でも毛の生えた河童みたいなモンらしいが、あんな化け物に水ン中で捕まえられたら、 そりゃ何も抵抗できずに引き摺り込まれるだろうと思ったよ」 

「河童の類ってのは怖えぞ」 
祖父さんはそう痛感して、それ以降家族が水遊びに出掛ける時には、くどいほどに注意するようになったのだそうだ。