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俺の田舎では、家の仏壇や神棚を粗末に扱う人に対して、『不動さんのリスを見習え』と言う決まり文句がある。この決まり文句の由来はそう古くなく、昭和30年頃だと言う。 
山の麓には川が流れて橋が架かっており、橋を渡って山に向かうと、大きな岩壁が見えて来る。 
その岩壁には自然に出来た穴があり、穴の中には『不動さん』と呼ばれる石像が祀ってある。 

その穴を中心に雨避けの屋根が取付けられ、賽銭箱やお供え物を置くための祭壇が設けられている。 
ある日、地元のお爺さんが不動さんに参ると、祭壇に一枚の榊の葉が供えてあった。 
不思議に思いつつも、その日はそのまま家に帰った。そんな事が3週間続いた。 
「一体誰だ?」と思ったお爺さんは、朝早くから草陰に隠れ不動さんを見張った。 
暫く見張ると、榊の葉を口に喰わえた小動物が不動さんに近付く。そして、榊の葉を祭壇に置いた。 
それはリスだった。リスはお爺さんに気付くと、山に逃げて行った。 

この出来事はすぐに知られ、信心深いリスが不動さんに榊の葉を毎日供えていたと、町中の評判となった。『不動さんのリスを見習え』の由来である。 
しかし、その日以来、リスが榊の葉を供えに来る事は無かった。 
現在、リスの榊の葉は大切に額縁に納められ、不動さんの屋根の柱に飾られている。 
俺の家のお婆ちゃんは、不動さんの境内の掃除の際、額縁の榊の葉を眺めて、「あのリスさんは元気でいるのかねぇ……。流石に、もう死んでしまったかねぇ……」と、何処か寂しげな顔で呟いていた。