216 : 夢の中 1/6  ◆XnSHXsXstA [sage ワニ] 投稿日:2008/08/26(火) 23:58:46 ID:/gda+Pvi0 [1/5回(PC)]
試したいことがあるから来い、と言われて 
ある日師匠の家に行った。当時はしょっちゅうだったけれど。 
師匠は真っ暗な部屋に胡坐をかいていた。なんだかぼーっとしていた。 
「どうしたんですか」 

師匠はせんべい布団の横のルームライト一つだけをぱちりとつけて 
眠そうに目をこすってから話し始めた。 
こんな話を知っているか、と。 

「・・・まあよくある話だよ」 
友達が朝青い顔で学校にやってくる。 
どうしたんだ?と話を聞くと怖い夢を見たんだ、と言う。 
夢の中で誰もいない山の中に居て、ひどく寒い。 
帰りたいと思っていると山の上から恐ろしいヒトが降りてくる。 
そいつが○○を探して来い、見つけられなければお前を殺す、と言う。 
必死に探す。湧き水の中、草木の根元・・・ 
見つけられないままに朝を迎えてしまった。 
そんなのただの夢だ、と友達を励まして一日を終える。 
その夕方、その友達が突然死んだことを知らされる。 
そしてその夜、自分もまた夢で山の中にいて、○○を探せと言われる…

 
217 : 夢の中 2/6  ◆XnSHXsXstA [sage ワニ] 投稿日:2008/08/26(火) 23:59:44 ID:/gda+Pvi0 [2/5回(PC)]
「それって猿夢じゃないですか」 
「そうそう。君に見てもらおうと思ってね。その夢を。 
 もし見つけられなかったらどうなるのかなって」 
なんで自分でやらないんすか、と言うと 
やったんだ、と返って来た。 
「聞くだけ聞いて、何個かは実際に見たよ。でもね、 
 歩くが電話を掛けてきてしまうんだ」 
電話がかかってくるのが夢の中でなのか現実なのかはわからなかったが、 
とにかく師匠が試そうとするとちゃんと歩くさんが妨害するらしい。 
俺はこの二人の間にあるよくわからない愛情の一端を見た気がした。 
「だから、寝て。○○を見つける前に起こしてあげるから」 
「ここでですか?」 
「ちゃんと起こさないと、жЮ◎*@☆ゞШ%▼だろう」 
「???」 
「¨$:ёг℃□+《〆だろうって」 
「なんですか?」 
「聞いてるか?」 
「はい。聞いてますけど・・・ 
 さっきから聞き取れなくて・・・」 
「○○だよ」 
「??」 
「○○」 
「 ○ ○ 」 

今思い出してもあれは不思議な感覚だった。 
何度繰り返して、ゆっくりと大きな声で師匠が言っても 
俺にはそれがなんなのか最後までわからなかった。 
半ば無理やり布団に入らされて、 
師匠がなんだか古くて薄ぼけた本を 
ルームライトの黄色くて安っぽい光の中で読んでいる横で 
仕方なく俺は眠った。呼び出されたのもそもそも夜中だったのだ。



218 : 夢の中 3/6  ◆XnSHXsXstA [sage ワニ] 投稿日:2008/08/27(水) 00:00:41 ID:/gda+Pvi0 [3/5回(PC)]
目を開けると真っ暗な空間が目の前に広がっていた。 
アレを探さなくちゃいけない。 
何を探さなくちゃいけないんだ? 
師匠の話ではどうなってたっけ。 
怖いヒトがやって来て… 

暗闇の中で誰かが動く気配がした。 
ああ。来たんだ。 
「何を探せばいいんですか」 
寒い。風がとても冷たい 
「○○を探せ」 
何?聞こえない。やっぱり聞こえない。 
「○○って何ですか?」 
「探せ」 
困る。そんなのはひどい。何を探せばいいのかわからないなんて 
しかもこんなに暗い 
これじゃ何かを探すどころか、どこに何があるのかさえわからない 

ぱちん 

急に明かりがついた。 

蛍光灯のゆらゆらと揺れる下で、師匠が顔を強張らせて俺を見下ろしていた。 
「…夢を見ていたんだろ?」 
急な光で目がチカチカした。 
「夢…なんか中途半端で…あの…『何か』探すところまで 
 いかなかったですよ」 

ははははは、と急に師匠が笑い出した。 

「え?」 



219 : 夢の中 4/6  ◆XnSHXsXstA [sage ワニ] 投稿日:2008/08/27(水) 00:02:27 ID:ZM8gxYlY0 [1/1回(PC)]
はっとして周りを見た。師匠の部屋じゃなかった。俺の部屋だった。 
俺は俺の部屋で俺の布団の中にいた。 
「俺師匠の家で寝ませんでしたっけ?」 
いつの間に帰ってきたんだろう。師匠が運んだとも考えづらい。 
師匠はにやにやといつもの「大変興味深いものを見つけました」という顔をして 
何も言わずにそのまま帰ってしまった。 
俺ももうなんだかめんどくさくなってそのまま寝なおした。



220 : 夢の中 5/6  ◆XnSHXsXstA [sage ワニ] 投稿日:2008/08/27(水) 00:04:10 ID:/gda+Pvi0 [4/5回(PC)]
目が覚めると朝だった。結局○○ってなんだったのかな?と思いながら 
バイトに行き、帰り、夕飯を食って一日が終わったところで 
師匠から電話がかかってきた。 
「今から試したいことがあるから来い」 
やれやれ、またか。と思った。 
「昨日の今日じゃないですか。猿夢の次は一体なんですか?」 
電話の向こうで師匠が軽く咳をした。 
「猿夢か。夢に出てきたか?」 
「いや、師匠が帰ってからは出ませんでしたし、夢も… 
 そういえば夕べはどうしたんですか? 
 俺、師匠の家で寝ましたよね。 
 師匠が俺をわざわざ運んでくれたんですか?」 
くくくっ、と電話の向こうで師匠が笑った。 
「俺から猿夢の話聞いた?」 
「聞きましたよ。何言ってるんですか 
 自分だと歩くさんが邪魔するから君で試すんだって言って…」 
「俺まだ君に猿夢の話、してないんだよね」 

は? 

「君、また一日やり直してるでしょう。 
 君や歩くみたいな人はね、カレンダー見ながら生活しろよ」 

「そんな…じゃあ昨日は…師匠俺の家に来ました…よね?」 


師匠はしばらく黙りこくっていた。 
ふふふ、とくぐもった笑い声が聞こえた。 
「君の夢はどこからどこまでなんだろうね」



221 : 夢の中 6/6  ◆XnSHXsXstA [sage ワニ] 投稿日:2008/08/27(水) 00:05:21 ID:/gda+Pvi0 [5/5回(PC)]
師匠が消えてしまってから時々心配になる。 
全部夢だったらどうしようって。 
ある朝目を覚ましたら、師匠の思い出が全部夢になっているんじゃないかって。 

もちろん、悪夢そのもののような人ではあったけれど。