110 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/06/13(日) 01:20:41 ID:1IsEdQPc0 [7/10回(PC)]
俺の長年の心霊体験によると、霊的に本当に強い奴は殆ど動かないし、 
(Mさんの"アレ"は珍しい例外だとしても) 
以前話した"球体"のように、自分からは滅多に手を出さない。 
攻撃されてもいないのに自分から動く場合は、 
相手がとにかく生理的に気に入らないので、跡形もなく捻り潰したい時だけだ。 
不意の天災と同じように、そこに理知的な意志は無い。 

とりあえず中央階段まで、二人で全力疾走する。 
半ば飛ぶように、階段を滑り降りていく。 
1階の正面玄関が見えたときだった。河童神の大きく伸びたシルエットが靴箱の前に浮かぶ。 
「ここは駄目だ!!2階に上がり直して、別の階段から降りるぞ!!」師匠が叫ぶ。 

封呪があるので、調子に乗って師匠を近づけすぎたのかもしれない。相手は"元"とは言え聖なる神様。 
師匠の中に眠る、どう考えても良いものではない"アレ"に気付き、やはりとても癇に障ったのだろう。 
今回はお札シールと霊水ぶっかけによって、かなり奥深くに"アレ"が封じ込められているとは言え、 
この状態の河童神に、あまり近づかれると本格的に発現する可能性がある。 
今日初めて神霊の怒りを眼にしたが、ここにさらに"アレ"が加わるとなると 
火に油が注がれるのは間違いなく、師匠がヤバイ、というか俺もヤバイ。 
ついでに敷地内に居る用務員さんもヤバイかもしれない。 

2階に上がると、廊下に河童神のシルエットがまた見える。 
ユラユラとしたその影が次々に分身分裂して、2階の廊下を埋め尽くしていく。 
「ここも駄目だ、上がりましょう!!」 
3階の廊下を大の大人が二人して、必死こいて、走る走る。 
俺はおかんを手伝えるように日頃から身体を鍛えているが、 
運動不足の師匠は息が切れてもうヒーヒー言っている。 
たまたま鍵の開いていた西端の図書室に滑り込む。 
師匠と共に、窓際の机の下に滑り込むのと同時に、河童神が入ってくる足音が聞こえた。

 
111 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/06/13(日) 01:21:26 ID:1IsEdQPc0 [8/10回(PC)]
近づいてくる河童神をどうするか、俺は考えを巡らせていた。 
"こうなったら残った霊水をぶっ掛けるか…いや…殆ど効かない可能性が高い…どうする…" 
師匠から「おい、A」と声をかけられ、振り向こうとすると、 
不意に机の外に蹴り出される。 
何がなんだか分からず、絶句して顔を上げると 
目ざとく俺を発見したらしい河童神が、もう目の前に立っていた。 
"師匠が裏切ったのか?いや、そんなはずはない…でもなんで?"混乱した考えが次々とよぎる。 
そんな思考を遮るかのように、河童神が"ドンッ"と槍を床に当て 
ヌッと、俺の顔の前に憤怒の表情を突き出してきた。 
「もう駄目だ…」と思った、まさにそのときだった。 
「A!!!!!」俺を囮にして、自分は窓を開けていたらしい師匠が、 
俺の手を掴んで引っ張り、そのままベランダから飛び降りる。 
グラウンドに真っ逆さまに落ちる二人、「死んだ…」と思ったのもつかの間 
師匠が俺の下にうまく身体を入れ、フワッと地面に着地した。 
「こいつが少しでも出現しているときは、俺の身体は完全に守られているみたいなんだ」 
怒りの河童神に接近されすぎた影響で、どうやらまた"アレ"が少し漏れていたらしい。 
仰向けになっている師匠の肩から、15cmほどのデカイ指先が3本見えた。 
「理科室に河童もどきが入ってきていた時には既に漏れていたし、今回はそいつを利用したわけよ(キリッ」 
「ナイス判断です!!助かりましたよ。」 
いつもならムカつく師匠のドヤ顔も、今だけは無茶苦茶頼もしく見える。 

立ち上がってグラウンドの砂を払った師匠が 
「じゃあ、さっさとこんなやばい所は立ち去ろうぜ」と提案し、 
俺も「そうしま………」と言いかけた時だった。 
砂埃を上げながら、前方の小学校正門前に河童神が降り立った。 
どうやら逃がしてはくれないらしい。 
「畜生!まだ追って来てんのか!!あの変態河童野郎!!!こうなりゃヤケだ!やってやんよ!!!!」 
自暴自棄になった師匠が、お札シールをまとめて身体から剥がしかけた時だった。



117 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/06/13(日) 19:31:15 ID:1IsEdQPc0 [9/10回(PC)]
河童神は数センチ宙に浮きながら、グラウンド端の苔むした一角に、 
その長いひとさし指を、静かに指した。 
そして驚くことに、とても楽しそうに「ケタケタケタ」と笑い、 
そのまま消えた。 
「………」 
「…あそこに何か作れって言ってるみたいですね」 
「…わかりやしーなー…どうせ神社とかが欲しいんだろう…。 
 …クソッ…無駄に脅かしやがって、あのストーカーハゲ河童は全部分かった上で、 
 俺たちで遊んでいたんだろうな!!」 
憤懣やるかたない師匠が蹴り上げたグラウンドの砂が、満月の夜空に舞った。 

鍵は俺が帰り際にこっそり用務員室に返してきた。用務員のおっちゃんはまだ深く眠り込んでいたが 
もしかしたら、最初から河童神に寝かされていたのかもしれない。 
家に帰って、連絡を聞き仕事を早めに切り上げてきたおかんに平謝りしつつ、今回の事情を詳しく話したら、 
なぜか一切説教は無かった。逆に気持ち悪いほどニコニコして、師匠の"アレ"をすぐに封じてくれた。 
師匠は便所スリッパで叩かれまくられ、結局涙目だったが。 

その後、おかん率いる町内会と、おかんの魔の手によって洗脳された西○小PTAが 
「○○地区の土地神様の復権と地域振興を願って」とか謎の理由で 
グラウンドの隅に鳥居と小さな神社を作った。というか市議会に無理矢理作らせた。 

河童神は、神社と校舎三階を気まぐれに行ったり来たりしているようだ。 
前述の弟くんによると、相変わらず頬杖をついたままニヤニヤしているが 
最近何か、とても幸せそうらしい。 
それと神社を作ることによってご加護が広がったらしく、 
ここ数ヶ月小学校とグラウンド周辺の町内では交通事故が一軒も無い。 
「あんた、あの神様に気に入られたみたいだよ、良かったわねぇ」 
とおかんにこないだ言われた。気に入ってくれるのは嬉しいが、 
たまにニヤニヤしながら、人の夢に出てくるのはやめて欲しい。 
っていうかこっち見んな。時にはなんか喋れ。いいから早く帰れ。了。