350 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/06(火) 02:20:11 ID:kGGuzqam0 [2/6回(PC)]
誰も居なくなったのを見計らって、 
ヨロヨロっと立ち上がって、歩き出す 
ホームレスルックの上に血塗れで、シャツも破れているので 
通行人が顔を顰めながら、露骨に避けていく。 
「パンクとかやってる人には見えないかな、見えないよな、へへへ」 
きつ過ぎて、独り言がブツブツと口をついて出る。 

気がついたら、夜の埠頭に立っていた。 
1メートル下では波が寄せては返し、吹き付ける海風が傷だらけの全身にしみる。 
この高さなら、飛び込んでも死ねないな。 
傷の痛みで、すぐに陸に上がっているのがオチだろう。 
数年前に死のうと思って、原付で峠のカーブに突っ込んでも、 
ガードレールが少し曲がっただけで、 
原付ごと傷一つ無く無事だった"アレ"の防御機能も問題だ。 
生半可なやり方では死ねないな。 
いや、待てよ。向こうに見えるなんちゃらブリッジから飛べば、 
意外とスンナリ逝けるんじゃないか? 
あの高さならさすがに、落下スピードと重力で半端無い力がかかるから 
"アレ"も俺をかばいきれないだろう。 
しかも万一"アレ"に守られて、水面に叩きつけられても死ねなかった場合、 
そのまま沈んでいっての溺死もできる二段構えだ。 
とか考えていたら、後ろから車のヘッドライトに照らされる。 
またさっきのヤクザか。人が死ぬ算段してる時にまでめんどくせぇな。 
もういっそ、ここから飛び込んで泳いでたら勝手に沈んで死ねるんじゃね。 
と思いながら、振り返ると

 
351 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/06(火) 02:21:24 ID:kGGuzqam0 [3/6回(PC)]
7~8メートルほど向こうに、 
どこにでも居るような、エプロンをしたおばさんが 
ライトに照らされて仁王立ちしていた。 
エプロンの上に黄色い蛍光タスキも掛かっていて 
逆光だが" まちかど 青 少 年 家 出 たんさく隊 "というマヌケな太字がなんとなく見える。 
「あらあら、やっと見つけたわ、ゴリョウシンが心配していたよ」 
一瞬何を言われているのか分からなかったが、何とか理解した。 
ああ、やたら人のいいうちの親のことか、 
少なくともあの人たちには、これ以上迷惑を掛けられない。 
無視して立ち去ろうとすると 
「あんた、ちょっと待ちなよ!!」 
鼓膜が破れそうな大声で引き止められる。 
うぜぇババアだな、ほっといてくれよ。と小さく呟きながら 
腰から崩れ落ちる。さっきしこたま殴られたのと、 
夕飯を食えなかったツケが今頃回ってきたようだ。 
「あんた、大丈夫かい!!」 
再度のやたらよく響く呼びかけに、今度は気が遠くなる。 
いいから少し黙ってくれ。もうホントにきつくてしょうがないんだ…。 
それと同時に、精神的にも体力的にも憔悴しきった俺に、 
宿主の危険を感じたらしい"アレ"が、またも発動し 
手近に居たおばさんを、標的と認識して突っ込んで行った。 
動けない俺は、"おばさんごめん。無理だと思うけど逃げてくれ"と 
心の中で願う他無かった。



352 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/06(火) 02:23:24 ID:kGGuzqam0 [4/6回(PC)]
見えていないのか、おばさんはたじろぐ素振りすら見せず 
慣れた手付きで脇から抜き出した、鋭利な突起物… 
…便所スリッパにも見えるが気のせいだろう。を素早く払った。 
「えいやぁーーー!!」 
掛け声とともに、鋭利な突起物が"アレ"を斜めに一閃する。 
二つに切り分けられた根元の方は、繋がっていた俺の肩まで 
力無くシュルシュルと戻っていき、消えた。 
切り取られた腕先の方は暗黒物質を撒き散らし、 
ビチャビチャと壮絶にのたうち回りながらも 
悪あがきなのか、凄まじい迫力で再度おばさんの方へと突っ込んでいく。 
危ない!!と思ったのも束の間 
間一髪、バグチャ!!と物凄い音をさせて、おばさんが右足で踏みつける。 
涼しい顔をしたおばさんが 
「私も鈍ったねぇ。まぁ、こんなもんだろう」と言い 
踏みつけられた"アレ"は、その足元で焦げる様に溶けていった。 

おばさんは、そのまま何事も無かったかのように、 
スタスタと俺に歩み寄り、右手を差し出して 
「あんた大変だね。その様子じゃ色々あるんだろうけど、 
 とりあえずは、うちに来ないかい」 
と言った。その姿が、 
菩薩様がこの世に現れたようにマジで見えたことは、 
一生の秘密だ。 

おばさんに肩を貸してもらいながら、黒塗りのRV車に乗り込む。 
貰ったスポーツ飲料を口に流し込んでからは 
後部座席のシートを倒して、 
半分意識を失いながら、窓に流れる夜景を見ていた。