485 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/19(月) 18:08:47 ID:dIgiHSiJ0 [15/26回(PC)]
 "痛車男" 

今日は、師匠が仕事で居ないので 
いつものファミレスで一人、チョコパフェを食いながらダラダラしていると 
後ろからでかい声がする。 
「萌えー!!」 
なんじゃあ、と思いつつ振り返ると、 
全身にお客さんと店員さんの注目を浴びながら 
G先輩が立っていた。 
G先輩は、俺の高校の時の部活の先輩である。 

テニス部だったときは、マッチョ坊主に眼鏡の面白キャラだったのに、 
今日は色眼鏡にオールバック、180前後の体格に寒色系の派手な半そでシャツを着て、 
スリムな黒の皮パンに、チェーンをぶら下げて履いていた。 
半そでから出た二の腕はタトゥーさえ入っていないが、筋骨隆々としていて逞しい。 
今の若い子に分かるだろうか、ミッシェルやブランキーの 
メンバーとして並んでいても、殆ど違和感の無い出で立ちだ。 
そして、服装からはどう見てもロックというかアメリカンヤンキーに憧れる危ない人種なのに 
本来の趣味は、 
ネトゲ含むゲームとアニメとフィギュアと漫画と言うさらに困った人だ。 
(ロックも一応は好きらしい) 
しかもそれを隠す素振りすら見せない。



 
486 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/19(月) 18:09:54 ID:dIgiHSiJ0 [16/26回(PC)]
肩を縮めて背もたれに隠れ、 
できれば、こっちに気付いていませんように、と願っていたのだが、 
そのまま堂々と俺の席まで歩いてきて、反対側にドスンッと座る。怖えぇww 
「う、うーっす、お久しぶりです」 
「おっすオラ、萌え萌え~きゅーん☆」 
胸に二の腕を寄せるポーズ付きで、野太い声を搾り出すように言われる。 
なんだ、その色んなものを曲解した挨拶は。と脱力してつい口が滑る。 
「先輩、さいきん友達居ないでしょ?」 
少なくともヲタクの友達は一人も居ないはずだ。こんな奴現実で見たこと無い。 
「…ぐっ、そんなことはない…ってかいきなり失礼だな。いるし!!めっちゃ居るぞ!!」 
なんか深く傷つけたみたいで、悪かったなぁと思って謝る。 
「いや、要らんこと言ってすいません。ところで、社会人が真昼間に何で?」 
これでも先輩は仕事ができるらしく、 
会社ではこの若さで係長とのことだ。…本当かどうかは分からない。 
「ははは…休みだから、久しぶりにお前とチョコパフェ食べたくてな。 
 決して寂しいわけではないぞ。そこんとこ勘違いするな!」 
その後、先輩のヲタ話に飽きた俺が、帰ろうとしては引き止められ、 
帰ろうとしては引き止められての押し引きが繰り返され 
ドリンクバーで十回ほど飲み物を入れ替え、トイレに二回ほど行き、 
時計の針が夕方の時刻を指した頃 
先輩がとうとう本題を述べる。 
「実は、オクで落としたフィギュアが、たぶん呪われててな。 
 …いや絶対に呪われてて、助けて欲しいんだよ」 
なんだそんなことか。現地に行けば5分で終わらせられるのに。 
「早く言ってくださいよ、先輩の家ってどこでしたっけ」 
「ここから、車で15分くらいのアパートだ」 
「分かりました。俺歩きなんで、先輩の車に乗せて貰ってもいいですか」 
「望むところよ!!おっと…あ、あんたが乗、乗りたいんだったら乗ってもいいんだからね!」 
野太い声でデレられて憤死しそうになる。 
ツンデレは女の子だけに、というか二次元の中でだけにしてほしい。



487 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/19(月) 18:11:13 ID:dIgiHSiJ0 [17/26回(PC)]
支払いは先輩がしてくれたので、先に駐車場に出ると 
珍しいものが停めてあり目が釘付けになった。 
その車は超高そうな黒のGTRで、フロントに手を広げた初音ミクのカラーイラストが描かれていた。 
しかもフロント、両サイド、バックの四箇所に丁寧にも、ポーズ違いで4体である。 
えーと……これは何ていうんだっけ…そうだ痛車だ。痛いクルマと書いて痛車だ。 
先輩のほかに、地元にこんなハードコアヲタクが居たのか。知らなかったなぁ、と珍しがっていると 
支払いを済まし、颯爽と俺の横を通り過ぎた先輩が痛車に近づき、 
カチッ、と音がしてオートロックが開いた。 
先輩はそのまま運転席に乗り込もうとして、こっちを振り向く 
「何してんだ、早く乗れよ」 
だからヲタクが金もつと、ろくなことに使わないんだよ畜生!!ふぁっきん!! 
サノバビッチ!!思いつく限りの罵倒を心の中でしてから 
(まじめなヲタクの皆様すいません)渋々、助手席に乗り込んだ。 

内装はもっと酷かった、フィギュアこそ置いて無いが 
シートは全てアニメ調になっていて、何か良く分からん美少女ステッカーが所々に貼ってあり 
フロントガラスにもくっつけられた美少女キーホルダーが、数本ブラブラと揺れていた。 
速度計の裏には、また別の女性アニメキャラが数体描かれていた。 
この車に乗っていると、俺の霊的な何かが死んでいくような錯覚すら覚える。 
これは間違いなく人間どころか、悪霊も避けていくだろう。 
マフラーを切っているらしい物凄いエンジン音と、 
世間体を切ったかららしい物凄い視線を浴びながら、 
車は永遠とも思える15分間を、先輩の家へと走った。 
フルスモークなので、外から乗員は見えないのだけが救いだ。



488 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/19(月) 18:12:28 ID:dIgiHSiJ0 [18/26回(PC)]
先輩は、築四十年くらいのボロアパートの 
舗装されていない駐車場に痛車を停めた。 
やっと着いた~少なくとも俺は、もう二度とこの車に乗りたくないな、と思いながら 
所々手すりが錆びているアパートの外階段を登っていく。 
二階、並び奥のきしむドアを先輩が開けて、部屋へと入る。 

そこは、四方の棚にぎっしり、しかし整然と並べられた、 
CD、DVDとフィギュアやプラモによる魔城だった。 
フィギュア、プラモは主にロボット物と美少女、 
CDは良く分からんマニアックな洋楽と、アニソンが4対6くらい割合で並んでいた。 
DVDはオールアニメである。よく見てみてもガンダムやジブリくらいしか俺には分からなかった。 
広いデスクの上には、パソコンのモニターとキーボードが、三台ほど並んでいて、 
先輩がリモコンを押すと、そのうち一台からテレビ番組が流れてきた。 
うわーすげぇ、先輩金持ってんなぁ…と思いながら 
しばらく見回していると、意を決したらしい先輩が、俺に話しかける。 
「毎晩家帰ってきて寝ようとすると、この子から視線を感じるんだよ…」 
そこには、ベットの脇に大事そうに飾られた一体のフィギュアがあった。 
詳しく話を聞くと、ネットオークションで落札したものなのだが、それが2週間前に届いてかららしい。 
「やっぱり、ほら悪霊が宿ってたら、寺とかで燃やしたりするんだろ? 
 4万もかけた俺のラ○カちゃんを燃やすなんて耐えられなくてよー」 
「今は置いとくだけで、悪霊を祓ってくれる便利なお寺が市内にあるんですよ。 
 時間はかかるかもしれませんが、大丈夫ですよ」 
まずはOさん寺の説明をして、先輩を安心させつつ調査を開始する。 

おかしい、このフィギュアには特に怨念らしきものは無い。 
先輩のヲタクオーラが若干乗り移っている気はするが 
動き出すほどの強さではないし、少なくとも憑依霊の類ではない。 
分からないので首を捻っていると、ふと気付く。 
あれっ、ベットとフィギュアの直線状にあるカーテンの脇に何か居るぞ。 
近づいて、サッとカーテンをめくると、何かが動いて逃げた。