489 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/19(月) 18:13:48 ID:dIgiHSiJ0 [19/26回(PC)]
鍵を開けて、ベランダに出てみるとエアコンの室外機と手すりの間に何か居る。 
良く見ると、黒髪で前髪パッツンの、地味な感じの女の子がうずくまっていた。 
驚いたがとりあえず「あの~」と声をかけてみる。 
ビクッと女の子はゆっくり立ち上がる。 
足先が少し薄れている。さらにパジャマ姿だ。 
やっと気付いたが、どうやら生霊らしい。と言うことはこの子が視線の元かもしれない。 
これだけ現実的なものを出すには、相当な生命力を消耗するはずだが。 
先輩あの言動で、よっぽどウザ…恨まれているんだろうか。 
見た感じそう攻撃性もなさそうだし、とにかく挨拶でもしてみるか。 
「こんにちわ」 
生霊がペコリとお辞儀を返す。何だか友好的なので尋ねてみる。 
「知人が困ってるみたいなんで、本体にお帰り願えないですかね」 
口をパクパクと動かすが、喋れないようで 
身振り手振りで俺に説明してくる。 
「はいはい、つまりはなぜか来てしまったけど帰れないと、ちょっと待ってて下さいね」 
先輩に生霊が居たことと、その特徴を説明すると会社で思い当たる若い子が居たらしい。 
それに先輩は生霊自体には、まったく気付いていなかったらしい。 
どうやら先輩は零感に近いようで、 
これほど強力なものが身近に居ても、視線しか感じられなかったみたいだ。 
じゃあ明日、先輩が会社でその子に話を聞いてみてからにしましょう。 
と言う事にしてさっさと帰ろうとしたら 
「まだなら、夕飯ここで食べていかんか」という命令が下されたので 
先輩自炊の無駄に豪華な夕食を、腹一杯食べさせられた。 
さらに「夜道の一人歩きは危ないので。家まで送迎する」とか言い出して、 
また痛車に乗せられそうになったので 
全力で断って、逃げるように帰った。

 
490 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/19(月) 18:16:03 ID:dIgiHSiJ0 [20/26回(PC)]
次の日出勤した先輩が、物知りの同僚に、彼女の特徴をそれとなく話したら 
総務課にいることが分かったので、出向いて訊いて回ったところ、 
彼女は2~3日前から出社していないのだそうだ。 
なんでもここ2週間ほど、体調が優れない感じだったようだ。 
彼女自身のことは今年入ったばかりで、普段から自分のことは話さない子なので、 
総務課の人もどういう性格なのかよく分からないらしい。 
家を聞こうにも、友達らしい友達も居ないので誰も知らなかったそうだ。 
会社に問い合わせても「個人情報の保護」を理由に 
軽々しくは教えてくれそうにもないとのことだった。 

生霊の女の子は、月夜のベランダから半分だけ顔を出してじーっ、とこっちを見ている。 
「手詰まりですね。どうします、強制的に祓うこともできますが」 
「いいわ。俺、もういっそこの子と生活する」 
眼が飛び出そうになる。元々少しおかしいとは思っていたが、 
先輩はガチで狂ってしまっていたんだろうか。 
「いや、ちょwwそれはダメでしょ。ってか先輩視線しか感じられないから無理ですよ。 
 ホント、そういうのは二次元だけにして下さいよ」 
「いーや、一緒に生活する。もう決めたことだ」 
上背のある先輩に睨まれると、元後輩の俺は逆らえない。 
本当は、生霊と長期間一緒に生活すると生命力を吸い取られかねないので 
意地でも止めるのが、業界のセオリーなのだが 
今回は、逆らえないのもあるが何だかんだ言って先輩も寂しいんだろう、ということで渋々了承する。 
ベランダを開けて、先輩の"一緒に生活したい"という望みを生霊に告げると 
コクコクとうなずいていた。っていうか、なんだこの霊能者。 
ま、何かあったらすぐに祓えばいいし、おかんには知られてないからいいか。



491 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/19(月) 18:44:24 ID:dIgiHSiJ0 [21/26回(PC)]
それから何事もなく2週間が経った。 
先輩は視線だけの女の子と、まあ上手くやっているようだ。 
ご飯を2人分作ってみたり、痛車の助手席にハート柄の座布団を敷いてみたりして 
「いやぁ、帰ってきて独りじゃないっていいなぁ。 
 彼女に作った分を、あとで少し食べてみると、なんと味が抜けてるんだよ! 
 これって食べてくれたってことだろ、すげー嬉しいぜ!」 
とか、事情を知らない人からしたら、 
狂っているとしか思えないことを平気で電話で言ってくる。 
生霊の本体の女の子は、無断欠勤が続いたので会社から解雇されたようだ。 
先輩は"生霊が消えたら困るから、そろそろ本体探すために探偵でも雇うかぁ" 
なんて本末転倒で、のん気なことを言っていた。 

その夜は暇だったので、仕事後におかんに"アレ"を祓われて、 
ボコボコになって療養中だった師匠の古物屋に乱入して 
2人でwiiのマリカーをやっていると 
先輩からメールが届く、「生霊の様子がおかしい。すぐに来い」とのことだったので 
真剣勝負を途中放棄した俺にブーブー言っている師匠を放置して 
原付をすっ飛ばし、先輩の寮へと向かう。



492 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/07/19(月) 18:47:46 ID:dIgiHSiJ0 [22/26回(PC)]
階段を急いで登り、先輩の部屋のドアを開けると 
女の子が先輩を引っ張っているのが見える。 
先輩は見えていないので、背中を引っ張られて浮き上がった 
"SWANS"といかめしいロゴが入った黒のTシャツを不思議そうに見ている。 
「おう、待ってた。これどういうことなんだ?」 
「ちょっと訊いてみますね」 
生霊にどういうことなのか、と訊くと"ついてこい"というジェスチャーを返される。 
「ついて来て欲しいそうです」 
「よし、わかった。行こう」 
高校時代から、こういう時の先輩は決断が早い。 
そのまま回れ右をしてドアを開け、 
生霊の先導で、先輩と階段を下りて駐車場に向かうと 
痛車を指差して、"開けて欲しい"というジェスチャーをする。 
「これに乗り込めって言ってます」 
「望むところよ!!違った…の、乗りたかったら乗ってもいいんだからね!」 
もうそのネタはいいよ…心を挫かれそうになりながら、なんとか助手席に乗り込む。 
後ろから顔を出した生霊がここを開けてくれ、とジェスチャーをするので 
助手席の前のサイドポケットを開ける。 
口を"ち"と"ず"の形にしたので、その中から市内の地図を出して 
目次を開いて見せると、開けて欲しいページを指差した。 
さらにそこを開き見せると、生霊が指し示したのは、なんと先輩の会社のビルだった。 
先輩に会社に向かうように告げて、確認のために生霊の方を振り向くと 
本体が弱っているのか、それとも痛車にやられているのか 
少しずつ薄くなりだしている。 
「ちょwww消えてる、女の子微妙に消えだしてる!!先輩急いで行ってあげて下さい」 
「何!!それは困るな!シートベルトしたか!!掴まっとけ!!!!」 
痛車が、GTRの性能をフルに使い、凄まじい勢いで走り出す。 
街灯が灯った、夕方のラッシュ明けの三車線の国道を、車線変更しまくりながら、 
ギリギリの間隔で他の車を抜きまくり、ギャリリリリリ!!!と摩擦音をさせながら道を曲がる。 
たぶんスピードメーターは140キロ以上は指していた思う。 
俺は警察に見つからないことと、事故が起こらないことだけを願って 
助手席にしがみ付いていた。