601 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/08/04(水) 23:05:54 ID:y5/Bb8us0 [10/14回(PC)]

"商品" 

今年の夏は暑すぎるので、怖いものを見て少し冷えようと 
師匠の古物屋を見学することにした。 
事情を話すと、テンションあがった師匠がお薦めを色々見せたいと言ってきたので 
うぜぇ…と思いつつも、仕方なく了承する。 
カウンターに座って待っていると、 
「あった。これだ」 
師匠が何やら、乱雑に並べられた商品の棚から小さなケースを取り出した。 
「今日は怖いだけのものがみたいのであって、実害のあるのは止めてくださいよ~」 
最近仕事以外の火遊びが過ぎているので、危険なことはしばらく自重したいと思っているのだ。 
「まあまあ、面白いから見ててごらんよ」 
その小さなプラスティックケースからMDディスクを取り出して 
「俺もここ5、6年はもっぱらipodなんでMDなんて使ってないが 
 せっかくだから再生機も出してみた」 
そう言いながら古いミニコンポを、机の上に置いた。 
「音ってのは、空気の振動なわけだ」 
「そうですね」 
「で、コンポはソフトの信号を読み取って、その通りに振動して音を出すだけなんだよな」 
「ええ」 
「話は変わるが幻聴ってのは、テレビの砂嵐やシャワーの音でも発生するって知ってるか?」 
「ああ、それらは音域が広いですからね。耳が間違った音を拾うこともあると思います」 
「そうだな、そしてその拾う音は聞こえる環境が同じでも、たぶん人によってそれぞれ違うだろう?」 
「でしょうね」 
「その辺を踏まえて、これを聞いてくれ」

 
602 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/08/04(水) 23:06:40 ID:y5/Bb8us0 [11/14回(PC)]
カチャっと音がしてMDディスクが差し込まれると 
サァァァァァというノイズの合間に、カリッ、カリッという音が聞こえてきた。 
「壊れてません?これ」 
「いいから、黙って耳澄ませてみ」 
カリッ、カリッという音の間隔が短くなり、ヴォォォォォォォォオオという低音ノイズが聞こえてくる。 
裏ではさっきのサァァァァァというノイズが流れている。 
次第に、何か言葉が聞こえてくるような気がして、耳を澄ましてみる。 
「こ……せ…ころ…………こ……ろ…せ………殺せ………ころせせせせせせせぇぇぇえぇえええ!!!!」 
うおっ、とビックリして少し仰け反った。 
そうして我に返ると、ただのノイズ音に戻る。 
「な、聞こえるだろ?面白くねぇかこれ。もうちょい高くても売れるかな」 
「なんなんすか。すげえビビりましたよ」 
「いや、本当にただのノイズの塊なんだけど、みんな同じ声がはっきりと聞こえるんだよ。 
 ちなみにまったく実害はない。霊的なものも無い。 
 俺の友達がラジオを録音ミスして作っただけのものだ」 
「偶然の産物なんですね」 
「そういうことだ。 
 もしかしたら人間の深層意識とかって案外単純なのかもしれんぜ。 
 この1枚にそれを説くヒントが隠されてるのかもしれんね。なんてな」 
「はい、次ぃ」 
今度は、店の奥から長さ20cmほどの呪符の貼られたケースを取り出してきた。 
「まあ、"人型"ってのはこういうのの定番アイテムだよな」 
とか言いながら、師匠はケースから人形を取り出した。 
全身磨れたブルーの八頭身で、 
アリの顔を簡略化したような頭がついていて、小さな弦楽器を持っている。 
何だろう、どこか呪術的でアジアン雑貨屋で売られていそうなものだ。 
「これは何なんですか」 
「うーんと、枕元に置いておくと、極まれに異国の怖そうな夢を見ますが、 
 言葉と文化が違うのでいまいち何をしたいのか分かりません。という呪いの人形」 
「なんすか、それは…」 
「いい線いってるんだが、ちょっとセールスポイントが弱いんだよなぁ…頭の痛い不良在庫だよ。 
 それはいいか…次行こう」



603 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/08/04(水) 23:09:23 ID:y5/Bb8us0 [12/14回(PC)]
師匠は埃をかぶった本棚から、少し黄ばんだ大学ノートを取り出した。 
パラパラとめくってみている。 
「お、あったあったこれだ。 
 ところで、中二病って知ってるか」 
「ネットとかで流行った言葉ですよね。 
 中学2年生が考えそうな発想のことを言っているんだったかな」 
「そうそう、まさにその位の歳に、 
 この持ち主の子は漫画家を目指していて、思春期にありがちな 
 痛い…というかかわいい絵を日々量産していたわけだ」 
「で、ある時暇だったので、ノートに物凄い書き込みをしてたら 
 宿っちゃったんだよな、絵に"何か"が。それ以来このノートからは 
 "出してくれぇぇぇぇぇぇええ"といううめき声が聞こえてきたり 
 絵が描かれているページを開けると、それに睨まれたりするわけだ」 
「うぇwww超怖いじゃないですかwww何で売れ残ってるんです?」 
「とにかく見てみろよ」 
そう言いながら師匠は、そのページらしきものを見せてくる。 
「……宿る絵を間違えましたね」 
そこには、凄い書き込まれた陰影線が入ったムキムキマッチョなドラ○もんが白い歯を見せていた。 
足元では凄い書き込まれた陰影線が入ったリアルなの○太が踏みつけられていて、 
そして両人の背中には、凄い書き込まれた陰影線が入った悪魔の翼らしきものも見える。 
「…それほどとんでもない念を込めて、この絵を描いたんだろうなぁ 
 …中二病というか…子供って怖いよなあ」 
余談だがその子は、今は普通に学生をしているそうだ。 
「次は怖いかもしれないなぁ」 
師匠は軽く脅しつつ、"禁持出"と汚く書かれたダンボールをごそごそやっている。 
「ほい、これだ」 
トンッと、机に額に入った肖像画が置かれる。 
部屋の中心で、椅子に座った穏やかな女性が描かれた絵だ。 
窓の外には黄金の小麦畑が見え、その上の青空を2本の飛行機雲が走っている。



604 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/08/04(水) 23:10:34 ID:y5/Bb8us0 [13/14回(PC)]
「これはどんなものなんですか、まったく怪しくないですが」 
「精神病院に強制入院させられていた、ある老画家が最近描いたものだ」 
「この画家はその筋には超有名でな。おばさんも良く知ってる人だぞ」 
「俺はまったく知らなかったですね。サインも入ってないし、日本人ですか?」 
「…秘密だ。その画家はある特殊な絵の具を使用していてな。 
 月日が経つと、その絵の具が細かく順に溶けていったり剥がれたりして 
 絵が真の姿を現すんだよ」 
店内の蛍光灯を消し、どこからもって来たのか懐中電灯で顔を下から照らした師匠が言う。 
「神に祈る聖女が次第に淫乱な魔女になっていったり、平和な町並みが火災に覆われて行ったり 
 絵の中で楽しく遊んでいる子供たちが、何年もかけて一人ずつ無残に死んでいったりするんだよ。 
 そして対策を講じていないと、とんでもない不幸を持ち主にも…って類のやつだ」 
「おお、じゃあこの絵もそのうちに…」 
「いやそれがこの爺さん、何年か前に病院から帰ってきたあと、すっかり毒気が抜けちまってなぁ。 
 最近は余生を楽しみながら、普通の油絵とかいっぱい描いてるらしいよ」 
「え…?」 
「というわけで老画家の絵は、コレクターによってふたつに分けられている。 
 "入院前"と"入院後"だ。そして前者はとんでもない価値がある。 
 ただ、残念なことにこれは"入院後"の作品だな。 
 この老画家は、技法が高く評価されていたわけであって、 
 絵自体は一流と比べるとそんなでもないから、二束三文で譲り受けた」 
「なんだ。じゃあダメじゃないですか」 
「ところが、この話にはオチがある」 
師匠が懐中電灯をカウンターに置き、真顔で俺に話しかける。 
「この絵の中に飛行機雲があるじゃないか、 
 俺が買った当初は小さくだが、確かにそこに"灰色の戦闘機"が飛んでいたんだ」 
「まさか…」 
「…ジジイ治ったふりしてるだけかもしれんぞ」 
ジジイという言い方に違和感を感じたが、めんどいのでスルーする。 
「ちなみに"入院中"の絵もあるという噂だが、それは俺も怖いので調べてない…」



605 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/08/04(水) 23:11:40 ID:y5/Bb8us0 [14/14回(PC)]
暗い雰囲気を払うように師匠が明るく言う。 
「はい、次はとっておき、最後の品でございます」 
「ほら、夏と言えば花火なわけだ。線香花火から打ち上げ花火まで綺麗だよなぁ。 
 季節は変わるが年末のライトアップとかも、 
 最後は"光る""キレイなもの"で締めるのが、日本人は好きだよな」 
かなりむりやりな気もするが、一応頷いて同意した。 
「というわけで昨日入荷した、人造生物"ホムンクルス"でございます~」 
「口が悪いのが玉に瑕。しかし、その妖しく輝く美しさは一度見たら忘れないぜ!! 
 残念ながらこれは分けあって売れないけど、特別に見せてやろう」 
そう言って師匠は、得意気に空のフラスコを差し出した。 
前からおかしいとは思っていたが、この暑さでとうとう本格的に狂ってしまったんだろうか。 
「えっ?あれ、おかしいな、どこ行ったんだろ」 
必死にフラスコを調べている師匠の後ろで 
少し開いた古物屋の入り口から、緑の光が出て行くのが見えた…気がした。 
「ま、いいや。あとで虫取り網もって探そう」 
そして急に商人っぽい媚びた笑みになった師匠が言う。 
「はい、全部ぽっきり1万円でございます。どれかひとつ、いかがかな」 
「……いらないっす」 
了。