806 : 本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2010/06/29(火) 01:20:18 ID:6xHvSwpo0 [5/9回(PC)]
「話つけてくる、お前は車から出んな」 
「は、はあ」 
(【おまえも来い】とか言われなくてよかった)チキンなことを考えながらルームミラー越しに後ろの様子を見る。 
眩しくてよくわからん。今頃乱闘でもしてるだろうか?先輩戻ってきたらダッシュしないと・・・。そう思いながら適当にルームミラーを調整する。 

ガタガタやっているうちに、ふと後部座席が写った。 
道具箱、資料を入れたファイルケース、小型の脚立・・現場回りの道具が雑然と積みあがっている。 
・・そんなのにまぎれながら、「手」が見えた。 
(え?) 
「手」はミラーを動かしながら一瞬見えただけで、すぐに視界から外れる。(いまの、なに?) 

ミラーを戻して確認すべきか?でも、ほんとに手だったらどうしよう? 
ミラーをもったまましばし硬直する。と、ミラーの下側から、今度は見間違いのない、男の右手が写り込んだ。 
座席の肩をゆっくりとつかむ。 
やたらと筋張った、生気のない手、人形のような、いや、、、 

死人のような、青白い手・・・

 
807 : 本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2010/06/29(火) 01:21:00 ID:6xHvSwpo0 [6/9回(PC)]
能天気に「FANCASTIC」を流していたカーステが止まる。代わりに 

【くうおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああ】 

谷底から響いてくるような、声とも風ともつかない音が響いてきた。 
ミラーの中では、座席の首のところからゆっくりと、今度は髪の毛のようなものが下から上がってくる。 
(なにこれ?やばい、やばいヤバいヤバいヤバいヤバい) 
心臓の音が耳元から聞こえる。脇の下から汗が垂れてきた。 
逃げるよな、こっから逃げたほうがいいよな。 

【お前は車から出んな】 

先輩の声が頭をかすめる、でも、でも・・・ 
髪の毛の間から、ついに目が覗く。般若の面みたいなそれと、目が、あった。 

「出るっきゃないっしょおお!!」俺は思いっきりサイドブレーキを引き、ドアに手をかけた。 
と、「ガチャ」後部座席の扉が開く。 

「なにしとんだボケがあ!」先輩の声が響き渡る。聞きなれた怒声が、天使の声に聞こえた。 



808 : 本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2010/06/29(火) 01:21:46 ID:6xHvSwpo0 [7/9回(PC)]
先輩は後ろの奴の頭をつかむと、無理やり外に引きずり出す。 
【ごぁぁぁぁぁ!】 
「ごあ、じゃねえ!クソがああ!!」 

しばらく外から「てめえ、おら!」「人が寝てると思いやがって!」 
怒声と何かを殴りつける音が響いていた。 

俺はその間、ドアにしがみつき、泣きながら目をつぶっていた。 


「話ついたぞ」 

どれぐらいの時間が経っただろうか。俺は先輩の声で気がついた。カーステからは「楽園ベイベー」が流れている。 

「ああ、あうあう」情けないことに、まともに言葉が出ない。正直、小便出てると思った。 
「運転してやる。変われ」 
俺はプルプルしながら助手席に移った。気づいたら、後ろの車はもうどこにもなかった。



809 : 本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2010/06/29(火) 01:23:21 ID:6xHvSwpo0 [8/9回(PC)]

夜の山道を、再び事務所に向かう。もう、それ以上この日は何も起こらなかった。 

「さっきの女どもな、いい奴だった。青白おやじのこと教えてくれたんだわ」 
帰りの道、先輩は独り言のように呟いた。そして、 
「あー、寝すぎた」といった。 

その日は事務所に着いたら速攻で家に帰り、電気をつけて寝た。 


「夜、現場からイッチーと二人で帰って来た俺君が、目を真っ赤にしてすぐに帰った。」 
「イッチーと俺君に、なにかあった。」 
「イッチーと俺君は、できている」 
職場に妙な噂が流れ始めたのはそれから間もなくのことだった。 


以上です。お付き合いのほど、ありがとう