54 : 1/4[sage] 投稿日:2010/07/28(水) 20:27:34 ID:82uj7jFQ0 [1/4回(PC)]
当事者的にはトラウマな話。 

六年前(当時高一)の夏休み、三人の友達と海釣りに行った。 
海までは自転車で小一時間(校則でバイクは禁止されていた)で、 
朝まずめ(明け方の魚の食い付きがいい時間帯)に釣ろうという計画から、 
夜中の3時起きで出掛ける事にしたのだが、一人が寝坊してしまった。 
そのため、目的地の埠頭に着いた時には案の定、好ポイントは先客に取られてしまっていた。 
それで仕方が無いので、これを機に釣り場を新規開拓しようという話になり、 
堤防沿いに少し走って、遊泳禁止区域の砂浜で釣る事にした。 
結果から言うと、この選択は失敗で、四人もいながら魚は1尾しか釣れなかった。 
その上、この魚が奇妙で、形は体長20cmほどのカワハギなのだが、 
赤錆色の魚体に暗緑色の斑模様という、見たことの無い体色だった。 
通常、カワハギの体色は白灰色地に黒っぽい褐色斑であり、 
こんな色合いのものは見たことが無かった。 
(結局、この辺ではこういう体色なのだろうという結論に落ち着いたが)

 
55 : 2/4[sage] 投稿日:2010/07/28(水) 20:28:54 ID:82uj7jFQ0 [2/4回(PC)]
何分夏の盛りのことなので、8時位には既に日差しが熱く感じられ始め、 
仕方なく諦めて荷物をまとめ始めた矢先、 
海岸でゴミ拾いをしていた地元のおじさんが声をかけてきた。 
やはりそこは釣りに向かない場所だったらしく、おじさんには 
「釣れんだろう?」 
と同情的な微笑を向けられた。それで自分達は少々恥じ入りながら、 
「3時間ほど粘って1匹だけです」 
と例のカワハギを見せると、途端におじさんは顔を曇らせ、 
「あんたらキタマクラ釣ったんか」 
と難儀そうに言った。 
キタマクラという魚はフグの仲間に実在するのだが、 
全国名と同じローカル名をつけられている別種の魚というのはままいるので、 
(この辺じゃコレをキタマクラと呼ぶのか) 
と考えながら、 
「毒でもあるんですか?」 
と尋ねると、 
「毒は無いけど、食べるモンじゃない」 
と奥歯に物が挟まったような回答。そして、それに続き、 
「悪いけど、ちょっと漁協まで来てくれ」 
と言われた。



56 : 3/4[sage] 投稿日:2010/07/28(水) 20:30:02 ID:82uj7jFQ0 [3/4回(PC)]
漁協では防災放送で組合漁師が招集され、集まってきた漁師さん達は、 
皆一様にクーラーボックスの中の赤いカワハギを見て顔をしかめていた。 
実はこの赤いカワハギは養殖魚か何かで、 
漁業権侵犯で怒られるんじゃないかと戦々恐々していた自分達。、 
そこに漁協職員らしきお爺さんが、 
「あんたら、この辺の子じゃないね。この後、海水浴していくつもりか?」 
と訊いてきたので、 
「釣りに来ただけで、もう帰るところでした」 
と答えると、 
「それならいい。なるべく早く帰りなさい」 
との返事。結局それを訊かれただけで、自分達はあっさり解放された。 
(ただし、カワハギは召し上げられてしまった) 
何が何だか判らないまま帰り支度をしいると、先のおじさんが来て 
全員に缶ジュースを手渡し、この度の件の説明をしてくれた。



57 : 4/4[sage] 投稿日:2010/07/28(水) 20:34:37 ID:82uj7jFQ0 [4/4回(PC)]
曰く、あのキタマクラと呼ばれる赤いカワハギは、 
地元では水死体を食べる魚として忌まれているのだとか。 
体色からの連想なのだろうが、魚が水中の死骸を食べるのは普通だし、 
浮遊物に集まる習性から水死体にも集まるシイラや太刀魚も、 
「シビトクライ」と呼んで忌み嫌う地方があると聞く。 
ただ、この地のキタマクラの場合は、滅多に水揚げされないものの、 
揚がると必ず数日中に同じ数の水死者が出るのだという。 
それで、漁師さん達はこれから揃って御祓いを受けに行くとの事。 
近くの(といっても2kmは離れているが)海水浴場も、 
遊泳域を浅瀬側に狭めて対処するらしかった。 
「海に近づかなければ大丈夫だろうから、引き込まれない内に帰った方がいい」 
お終いにそう言われ、釣果の代わりなのか口止め料のつもりなのか、 
自分達は各々干物の入ったビニール袋を持たされて家路に着いた。 

翌々日、新聞に遊泳禁止区域でサーファーが溺死した旨が報じられていたが、 
小さな記事で、それ以上の詳細は判らなかった。 
自業自得の事故と言われればその通りだと思う一方、 
やはり自分達があれを釣ったせいではという思いが頭から離れず、 
それ以来、四人全員、釣りをしなくなった。