61 : 本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2010/08/26(木) 19:37:29 ID:G8mXFqme0 [1/2回(PC)]
岡山県の昔話。 

『まどうとおおかみ』 

昔、山村に魚を売りに行く商人がいた。 
山村では魚は重宝するため商人はあちらの山へこちらの谷へと忙しく働いていた。 

さて、この山には昔から狼が住んでいて腹が減ったら人を襲うこともあった。 
しかし、狼よりも村人に恐れられているのはまどうという化け物である。 
なんでもこの山に巣食っているというのだが噂を聞くばかりで実際にその姿を見た者はいないのだった。 

今日も商人はいつものように大きなかごに魚を入れてきつい山道を登る。商人は峠道近くの道に差し掛かった時、ふいにかごを地面におろした。 
あたりは藪だらけで生き物の姿は見えないが、藪の向こうで狼がこちらに耳を澄ませていることを商人は知っていた。商人はかごの中から生きのいい魚をよりだして、「おおかみさまどうぞ!」とさけんで藪の中に魚をほおり投げた。これが商人の毎日の日課であった。 

その日は商売に手間取り、山道を家へと引き返す頃にはもうすっかり日が沈んでいた。 
ふと見ると山道の両側に挟み込むようにして狼がまちぶせている。 
「おや、おおかみさま。どうなすった?」 
商人が近寄ると、二匹の狼は商人にとびかかろうと身を低くした。 
「おれを食おうとして待ち伏せていたのか。毎朝魚をやってきたのに、やはり狼は狼なんだなぁ。」 
商人はもはやこれまでと覚悟を決め、道に座り込んだ。 
そのとき、おどろおどろしい山なりが山々に轟きわたった。とたん、二匹の狼は商人に飛びかかり体の上に覆いかぶさった。 

「おらぬぞぉ。商人がおらぬ。ついさっきまでみえとったのに狼しかおらぬ」 
不気味な声が山に響いた。『まどう』の声である。商人は狼の体の下でちいさくなって震えているしかなかった。 
やがて一陣の風がどうっとあたりを揺らし、まどうは山の向こうへ消えていった。 
「おおかみさまがいなかったらおれはまどうに殺されていた。ありがとうよ。」 
商人は狼に礼を言うと、急いで山を降りた。 

それ以来、商人はいままでにも増して山の狼を敬うようになったという。