600 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/09/16(木) 20:37:58 ID:/WnOwU/k0 [3/7回(PC)]
「……」 
「……」 
しばらくお互いの作業に集中する。 
「…そうだ、上げ底の話をしたかったんだった、さっきしかけたよな?」 
師匠が手を休めてこっちに話しかけてくる。 
「そうでしたっけ…?」 
「あれ、ちがったっけ?まあいいや、とにかく俺らは"霊的な"上げ底を履かされている。 
 俺は"アレ"によって、お前はその血筋によって」 
「上がってるんすかね。むしろお互いかなり下がってませんか?一般性という意味において」 
「…そんな気もするが、下げ底じゃなんの話かわからんから、上げ底ということにする」 
零感ならこんなヤクザな職につかなくても良かったかもしれない。と思いながら 
俺は寝転がったまま漫画の次の巻に手を伸ばす。 
「しかし上げ底によって色んなもんが見えるし、感じられるわけだ。 
 神秘的なものから、見えなくていいものまで」 
とは言われても、俺は生まれた時からこれが当たり前の生活なわけで、今更何とも思わないが。 
「それを生業にもしている、そのことでの繋がりも出来た。 
 勿論、それによって様々なものも亡くしたりしている」 
俺自身はそれほど亡くしたとは思っていないが、及び知らぬ所でそうであるのかもしれない。 
「でな、この上げ底が無ければお互いとっくに何回か死んでいるわけだ」 
「そうかもしれせんね」 
「しかし、この上げ底が無ければ、そもそも死にそうになったりもしないわけだ…」 
「…そうでしょうね」 
「上げ底を脱いで見たいと思わないか、というか祓ってみたいと思わないか!」 
「…何言ってるんすか、それが出来たら困りませんよ。 
 それに俺のは、ただの強すぎる霊感なんで祓いようがありませんって」 
「駄目元でチャレンジしようぜ!!人生にはチャレンジが大切だ!!」 
キラキラした目でこちらを見ている師匠に分からないように、小さく溜息を吐いた。 
またこの人の悪いスイッチが入ったようだ。 
ぶっちゃけ俺はどうでもよくて、 
自分の"アレ"をなんとかしたいだけなのだろう。いつものことだ。

 
601 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/09/16(木) 20:43:49 ID:/WnOwU/k0 [4/7回(PC)]
「そんなこと言って、今度は、どこの神社を潰しかけるんですか。 
 ほんとそのうち、天罰が下りますよ…」 
数年前、同じような師匠の思いつきで 
数駅向こうの神社の守護者(狛犬っぽい何かだった)とガチバトルになりかけたことがある。 
"アレ"持ちの師匠は基本的に神域には近づけないのだ。 
「ふっふっふ、そこは私も考えたのだよ。日本には三大神宮というものがあってだな。 
 そこにはその辺のしょっぱい神社や、クソカッパなどとは比べ物にならない、 
 力を持ったマジモンの神様が居らっしゃるわけだ」 
「まさか…」 
「じゃあ、さっそく行こうか。日が暮れる前に」 
この人はスイッチが入ったが最後、他人にはまず止められない。おかんを例外として。 
そしておかんはいつものごとく仕事で不在だった。 

というわけで、師匠の車をかっ飛ばして、一番近い某神宮の近所までやってきた。 
山をいくつか越えてきたのだが、 
某神宮に近づくほどに、運転している師匠の様子がおかしくなる。 
いきなり昭和歌謡を歌いだしたかと思えば、アブナイ独り言を呟いたりして 
さらには、当たりそうも無い怪しい予言とかもしだす有様だった。 
たぶん"アレ"持ちに、某神宮を守る結界が反応して、呪詛を浴びせているのだろう。 
この程度で済んでいるのはもしかすると"アレ"が防御しているのかもしれない。 
「明日は、蛙の腹と牛の首が75パーセントの確立でお空に昇るでしょうけけけけけけけけけけ」 
とか言い出した師匠の横っ面を、何度も御札ではたいて正気に戻しながら 
時には、俺がハンドルを横から奪いながら、 
何とか、俺たちは某神宮側の"ある地点"に差し掛かった。 
いい加減難所は越えたっぽいし、あとは楽にたどり着けるだろう。 
俺は、左頬が真っ赤になった師匠を横目に見ながら、一息ついていた。



602 : ◆7QPLwJZR/Ypf [sage] 投稿日:2010/09/16(木) 20:48:08 ID:/WnOwU/k0 [5/7回(PC)]
ところが、そう簡単にはいかなかった。 
詳しくは場所を書けないが、 
その"ある地点"の特定の場所に車が近づくと 
師匠が強引にハンドルを切ってアクセルを踏み、ユーターンするのだ。 
そして、そのまま元着た道を帰ろうとする。 
俺は、横からハンドルを取ろうとしたが凄い力で無理だった。 
師匠は「身体が勝手に動くんだよ…、これどういうことなの…」と涙目になっている。 
運転を変わってもらって、俺がやっても同じだ。 
自然に身体がハンドルを切って、同じ地点でユーターンしてしまう。 
試しに師匠を少し離れたところに降ろして、 
俺一人で車を走らすと、すんなり通り過ぎることが出来た。 

どうやら再度"アレ"のせいでまた、何らかの結界に引っかかっているらしい。 
師匠も「おーい」とか言いながら歩道を走り寄ってくるが 
さっきのハンドルを切った地点付近に差し掛かると、 
体がピンっと気をつけの姿勢になって 
そのまま回れ右して、5メートルほど戻ってしまう。 
何度チャレンジしても同じようだ。それでも必死にこちらに向かおうとして 
同じ動作をする師匠があまりにも面白いので、爆笑しながら携帯で動画を撮っていたら 
それに気付いた師匠が怒って走り寄って来ようとして、 
また、同じように回れ右して戻っていった。