958 : ◆W8nV3n4fZ. [sage] 投稿日:2010/10/11(月) 18:22:53 ID:vYb/Jy0b0 [7/9回(PC)]
「お、母親が保育士に挨拶に行ったぞ。先生に言うかな。・・・・・・ああ、言わなかったみたいだな」 
母親と男の子が俺たちのそばに停められた車に戻ってくる。 
じっとそれを見ているのも気まずくて、俺は目を逸らした。 
先輩は逸らさなかったようだ。 
母親が不審そうにこちらを見てくる。 
「可愛いお子さんですね」 
先輩がそう言って会釈したが、なんとなく逆効果な気がした。 
母親は無言で会釈を返すと、気味悪そうに子供を乗せて帰っていった。 
「・・・・・・どう思われましたかね、俺ら」 
ねえ、先輩、と言おうとして、先輩を見ると。 
驚いた。先輩は腹の底から不快であるような顔をしている。 
「これで一つの可能性が閉じた。あいつらのせいで、大人のせいで」 
どういうことだろう。 
おとなしく解説を待つことにした。 
「あの子は多分過去に言ったことがある。『あそこに女の人がいるよ』『男の人がおいでおいでしてるよ』『死んだ猫が帰ってきたよ』」 
先輩は苦そうに言う。 
「親にか、それとも保育士にか、他の大人か・・・・・・誰かに言ったはずだ。自分に見えている物がその人には見えていないのが不思議で」 
その先はなんとなく理解できた。 
「それを、その人たちは、否定したんですね」 
今度は泣きそうな顔をして、先輩が頷く。 
「子供にとって、大人は絶対で、全ての判断は彼らじゃなくその周囲の大人が下す。彼の貴重な才能は、彼の本当に見える世界は、否定されたんだ」 
子供は、不思議な物や変わった物を見ると、すぐ大人に報告する。 
あの子は、母親が保育士に挨拶している時、確かにブランコの方を見た。 
そして、しばらく見つめた後、首を振ったのだ。 
何も見えない、何も見ていないと。 
あの子が何を考えたのか、それは想像できる。子供にとって、大人からの否定は・・・・・・。 
「あの子は恐らく、自分がおかしいのだと思い込んでいる。そして見えている物を“見なかった”ことにする。そして見えなくなる。いつか、本当に」 
なんだかとても辛そうに見えた。 
「俺もそうだった。否定され、拒絶された。俺も、そうだったんだ」

 
959 : ◆W8nV3n4fZ. [sage] 投稿日:2010/10/11(月) 18:26:08 ID:vYb/Jy0b0 [8/9回(PC)]
先輩は時々、その感情をコントロールできなくなるようだった。 
特に、なんと言えばいいのか、同じように『見える』人に関しては、それが顕著だった。 
「・・・・・・でも、先輩。先輩はそれでも見えるじゃないですか。あの子もそうなるかもしれませんよ」 
慰めよう、と思ったのかも知れない。 
俺は諦めるなと、そういう意味の言葉を選んでいた。 
「そんなわけがないんだ。あの子は俺と違う。俺は、違ったんだ」 
帰る、とそう呟いて、先輩はとぼとぼ歩いていった。 
その後姿は、とても寂しそうで、少し歪んで見えた。 

この話を、後日、知り合いの占い師にしたことがある。 
これはその時の話。 
「なんで世の中に、幽霊の見える人間が少ないか、考えたことはありますか」 
タロット占いをしながら、彼女・・・・・・タケナカさんは言った。 
「そりゃ、才能の問題だから・・・・・・でしょうか」 
Non、と言って、カードを一枚めくる。 
「子供には、見える子、とても多い。だけど、大人はそれがおかしいと言う。だから、見えなくなる。殆どの人がそうです」 
また一枚、カードをめくる。 
「例えば、君のように、後から見えるようになれば、それを制御したり隠したりすることも出来る。子供は、出来ない」 
またカードをめくる。 
「後から見えるようになる人なんて、殆どいない。周りにとても強い人いない限り。だから、結果は、殆どの人に見えないとなります」 
なるほど。 
俺のように、誰かに引き摺られる例と、才能として見える人。 
才能のある人は多いが、それを自分から潰してしまうから、少ない。 
・・・・・・大人に、否定されたから。 
「でも、先輩もそういう経験あるって言ってました。あと、もう一人。あいつも多分幼少からのはずです」 
タケナカさんはにこりとして、またカードをめくった。 
「ハナヤマさんに関してはわかります。彼女、とても頭が良い。上手くやってきたと思います。そういう人です」 
もう一人、というのは確かにハナヤマのことだ。 
中学からの同級生で、同じオカルトマニア。 
霊感は先輩のお墨付き。



960 : ◆W8nV3n4fZ. [sage] 投稿日:2010/10/11(月) 18:30:01 ID:vYb/Jy0b0 [9/9回(PC)]
「でも」 
タケナカさんのカードをめくる手が止まる。 
「あの人は、多分違います。彼は、自分を否定したその世界を、また否定した、んじゃないでしょうか。だから、あそこまで強くなってしまった」 
どういうことだろう。 
理解は出来ていなかったが、先輩が以前言っていた言葉が何故か浮かんで消えた。 
『俺に両親はいない。死んだんだ、二人とも』 
まさか。いくらなんでもそれは。 
「彼はとても強い。けど、すごく脆い。私達ではとても支えられないほど強く大きいのに、枯れ枝のように脆い。だから」 
最後のカードをめくった。 
タケナカさんはそのカードをそっと手で隠す。 

・・・・・・だから、その時は。支えるのは、君の役目です。 

先輩と子供 終