535 : 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2010/09/30(木) 14:59:55 ID:ymsU6SjM0 [1/3回(PC)]
 
タイトル:パワースポット 

大学1回生の秋頃だったと思う。大学の先輩で俺のオカルト道の師匠は絶不調に陥っていた。 
心配半分、冷やかし半分で師匠のアパートに様子を見に行くと、師匠はお世辞にもきれいとは言えない部屋でごろ寝していた。 
「もう少しきれいにしましょうよ。こんな所にいたら病気になっちゃいますよ」 
そう言いながら師匠に近づいたところ、目の前を不意に黒いものが横切った。 
あわてて飛び退く俺。師匠は気が付いていないようでまだ寝ている。 
よく見ると、飛び出してきたのは触角が異様に長い、背中の丸いコオロギみたいなバッタだった。 
呼び方はいろいろあるけど「カマドウマ」というのが正しい名前らしい。 
この虫が近くにいるのは決して気持ちのいいものではない。が、素手で捕まえるのも気持ち悪い。 
隣には師匠がいる。自分の部屋なんだから、師匠にも手伝ってもらおう。 
「別にいいだろ、虫の1匹や2匹……」と言ってまだ寝ようとする師匠を何とか起こすと、 
部屋にあった新聞紙を広げて壁を作り、二人で虫を外に誘導した。 
しかし、このカマドウマは人を脅かすのが目的なのかと思うくらい、不意打ちが上手い。 
追い出しながら、過去にこの虫に不意打ちされた記憶が蘇ってくる。 
虫を追い出すと、いきなり起こされて働かされた師匠があからさまに不機嫌そうな顔をしていた。 
空気が重い。 
そのまま退散しようかと考えていると、案の定、師匠が「あんな虫の1匹や2匹で起こされたら……」と言い始めた。 
その様子に少し安心して帰ろうかと思ったが「あんな虫の…」という言葉が引っ掛かった。 
そこで、今までに体験した、一番怖いカマドウマの記憶を話すことにした。 
……小学生のころ、冬場の寒い時期に近所の悪ガキ4~5人と近くの山にある洞穴探検をした。 
農家の人が畑で採れたものを一時的に貯蔵するための穴だったり、用水路として作られた穴だったが、ほとんどは使われなくなってただの穴になっていた。 
虫や蜘蛛を見つけては大騒ぎしながらいくつかの穴を探検して回ったのち、最後に一番長い用水路跡に向かった。 
長いといっても全長2~300mくらいで、中は子供がやっと立って歩ける高さ、幅は1mあるかないかの洞穴だ。

 
536 : 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2010/09/30(木) 15:00:29 ID:ymsU6SjM0 [2/3回(PC)]
(パワースポット2) 
全員で入り、しばらく進んで半分近く歩いたころだろうか、それまで意気揚々と先頭を歩いていた悪ガキ軍団のボスが急に立ち止まった。 
「どうしたの?」という後ろからの問いにボスは、か細い声で「上……上……」と言うばかり。 
明りを照らすと……天井部分には無数のカマドウマがひしめいていた。何万、何十万匹という数だ。 
虫が冬眠していたのだ。 
それはまるで大量のパチンコ玉を床にばらまいて光を当てたように、 
丸い背中が不気味に光り、長い触角が女性の髪の毛のように垂れ下がっていた。 
どこまでこの大群が続いているのか分からなかった。 
ただ、懐中電灯で照らされた範囲は確実に虫の群れが見えていた。 
そして……この大群はどこから始まっているのか? 
向こう側からこちら側に、徐々に光を近づけていく。大群は切れ目なく続いている。 
光が近付いてくる。血の気が引き始める悪ガキ達。 
光が悪ガキ達の真上を照らしたとき、全員絶句した。 
その大群は自分たちのいる場所の天井も占めていたのだ。しかも後ろまで続いている。 
虫の大群の真っただ中に入り込んでしまっていたのだ。 
その場で会議をして出た結論は「ゆっくり前進して出口を目指す」というものだった。 
そこからは前半の威勢の良さはすっかり影を潜め、刺激しないようにソロリソロリと歩いて行った。 
どれくらいの時間が経過したか、長い沈黙と恐怖の後に、ようやく出口の光が見え…… 
「いやあ、あれは本当に怖かったですよ。今思い出しても……」 
と話していると、師匠は難しい顔をして横槍を入れてきた。 
「それはおかしいね」 
虫が洞穴にいたことがそんなにおかしいのだろうか。 
「何がですか?」 
そう聞き返すと、師匠は再び質問してきた。 
「探検に行ったんだよね?」 
確かめるように訊いてくる。 
「そうですよ」 
何がおかしいのだろう。気になりつつも質問に答える。 
「おかしいよね?だって探検に行ってるのに、その洞穴では全員、わき目も振らずに前だけ見て半分近くも歩いているんだよ?」 
その通りだった。探検に行ったのに、頭が付きそうなくらいに近い天井部分の異変に、誰一人として気づいていなかったのだ。 
ただ怖いだけだった思い出話が、矛盾を突かれて一気に不気味なオーラを纏い始める。 



 537 : 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2010/09/30(木) 15:01:59 ID:ymsU6SjM0 [3/3回(PC)]
(パワースポット・ラスト) 
師匠は続ける。 
「それにどうして元来た道を戻らなかったの?この先にさらに虫がいるかもしれないのに」 
まったくそのとおりだった。虫に気づいた時点で探検は終了していた。恐怖でパニック寸前の状態だったのだ。 
全員、我先に逃げ出したい気持ちだったのだ。それならば、元来た道を戻ったほうが安全だ。 
それなのに、全員が出した結論は「前に進む」だった。 
戻ってはいけないような空気に支配されていた。なぜ? 
洞穴の前半を思い出そうとしても、前を照らす明り以外、すべて闇に包まれている。闇の向こうには、何があったのか? 
重い沈黙の流れる中、師匠が話し始めた。 
「虫は場所を選んで冬眠する。気温が一定でなるべく暖かい場所、湿度が高めの場所、 
そして……餌のある場所。だけど、誰一人としてその”餌”を見なかった。否、正確には”見ないようにしていた”んだ」 
餌、という言葉に違和感を感じたが、それを察した師匠は「形あるものだけが餌になるとは限らないよ」と付け加えながら、さらに話し続けた。 
「おそらくそれは、見られたくないという明確な意思を持った存在…… 
たとえば力の弱い山の怪(ケ)、あるいは人間の霊魂、まあそんなところだろう。いずれにせよ、子供のうちに見なくて正解だったと思う」 
それとも見てみたかった?と、意地悪な質問を投げてくる師匠に、俺は首を大きく横に振って答えた。 
「でもね、そんなふうに人間が目をそむける場所であっても、虫たちにとっては大事な”パワースポット”だったんだろうね」 
パワースポット、か……師匠はそう呟くと、何かに思いを巡らせているようだった。 
が、手元に転がる数枚の1円玉に気づいた師匠はふう、とため息つき、 
今日はもう話すことはないから寝るよ、と言うと、来た時と同じような格好でごろ寝するのだった。