11 : 稲男 ◆W8nV3n4fZ. [sage] 投稿日:2010/10/13(水) 20:22:24 ID:99i3wtg50 [1/5回(PC)]
どうもこんばんわ、稲男です。 
今日は朝から脱穀、昼から稲刈り二日目という微妙にハードなスケジュールをこなして来ました。 
もう米は見飽きた感じです。 
その内自然と間隔が広がっていくと思いますので、ある程度の基盤が出来るまでということでご容赦ください。 
と、言うわけで今日も一つ。 

「手首ですか」 
「そう、手首だ」 
その話を聞いたのは、出会った年の夏だった。 
「で、手首がどうしたんですか」 
「うん、手首がな、こう、歩くんだ。知ってるか。昔の映画」 
てれれれん、と主題歌を歌う。 
「あの、化け物一家のヤツですよね。で、どこを歩くんですか」 
「俺の部屋の中」 
「やっぱり帰ります」 
先輩の部屋には空調が無い。 
その日は猛暑日だったが、先輩がどうしても部屋で無ければ話せないことだと言うからこうやって耐えているのに。 
その結果がこの場に幽霊が出ますだった。 
「まあ待て。何も難しい事を頼もうっていうんじゃない。そいつを一緒に見ようって言いたいだけだ」 
正直、気乗りしない。 
そういうものを見たいって気持ちより、この暑苦しい空間にいたくないという気持ちが強いからだ。 
いい加減いらいらしてきた俺に、先輩は尚語る。 
「なあ、そんな顔しないで頼むよ。困ってるんだ、俺」 
ひく、と眉が動く。 
なんと。予想していなかった。 
先輩が困っている。 
それを俺が助ける。 
「わかりました。そこまで言うなら」 
俺は単純だった。

 
12 : 稲男 ◆W8nV3n4fZ. [sage] 投稿日:2010/10/13(水) 20:26:15 ID:99i3wtg50 [2/5回(PC)]
その夜。先輩のアパートにて。 
「と、いうわけで。第一回、ドキドキお泊り会~」 
いぇーいと楽しそうな先輩と、暑さのイライラと、華の無い空間にがっくり来ている俺。 
「あの、楽しいですか。男二人でお泊り会して」 
先輩は一瞬で冷静になった。 
というより悲しそうになった。 
「誘ったけど誰もノってくれなかった」 
先輩には人望がない。 
・・・・・・いや、本当に人望がない。 
友達もいなければ、もちろん恋人もいないし、仲間と呼べる人もほとんど皆無だった。 
「先輩・・・・・・今度から俺に人集めさせてください。なんかある時は」 
おう、と答えた先輩はもういつものテンションだった。 
「じゃあ、詳しく説明するぞ。起きる現象は一つ。手首から先が両手揃ってうろうろする。それだけ」 
「それは昼に聞きました。で、それをどうしたいんですか」 
結局はそこなのだ。 
先輩がどう困っていて、それで俺がどうしたらいいのか。 
そこが重要だ。 
「まあ、気味のいいもんじゃないから、追い払いたい。だけどあいつ、俺につかず離れず、逃げ回るんだ」 
俺は想像する。 
必死に逃げる両手首と、部屋を駆け回って追いかける先輩。 
想像の中の手首が思ったよりコミック調だったので、深刻に思えなかった。 
「で、具体的には何を?」 
先輩は少し考えたが、すぐひらめいたように手を打った。 
「よし、こういう時はあれだろう。挟み撃ち。俺が追いかける先にお前が待ってれば、流石の手首も止まるんじゃないかな」 
先輩は何のつもりかシャドーボクシングをしている。 
この人の考えることはやっぱりわからない。 
「わかりました。じゃあ、えっと、いつ出るんですか。待ちますか」 
うん、と先輩は言った。が、急に布団を敷き始めた。 
「え、ちょっと。どうするんですか」 
「寝るんだよ。寝てる時に出るんだから」 
俺は畳に直らしい。 
やっぱり、なんだか釈然としなかった。



13 : 稲男 ◆W8nV3n4fZ. [sage] 投稿日:2010/10/13(水) 20:30:20 ID:99i3wtg50 [3/5回(PC)]
どのくらい経ったかわからない。 
頭の中を掻き回される感覚があって飛び起きた。 
吐き気がする。 
部屋を飛び出して、共同トイレに駆け込む。 
和式便器にしこたま吐いて、ふらつきながら部屋に戻る。 
畳の跡が腕についている。 
何となくその跡をなぞっていると、明らかに違う痕跡に気付く。 
ぼんやりしていた頭に冷水を流し込まれる。 
わざわざこんな寝苦しい部屋で寝ていた理由を思い出す。 
爪の痕。 
ちょっとした食い込み痕だが、不思議とそれが爪痕だと理解できた。 
暗い部屋の中を見渡す。 
見渡すほど広くないのだが、窓から入る月明かりだけでは見えない部分もある。 
が、おかしな物は何も見えない。 
安心は出来ない。先輩を起こそうかと迷っている内、不意にあるイメージが浮かんだ。 
寝る前に考えたような、コミカルな手首ではなく、リアルな、まるで今見たような。 
女の手だ、と直感的に思った。 
白魚のような、という例えがあるが、本当に白く、魚鱗のような光沢を持った手だった。 
それが、俺に向って這って来るイメージ。 
歩くと聞いていたのだが、それは手のひらを畳に擦りながら、指を交互に進め這い寄って来ていた。 
はっと気付くともちろん足元には何もいない。 
直後、額に殴られたような衝撃。 
がくっと後ろに仰け反ってしまう。 
必然的に喉がさらけ出されて、その喉に指の感覚が纏わりついた。 
「げあ」 
声を出して先輩に気付いてもらおうとしたが、喉仏に親指が食い込んで呻き声にしかならない。 
喉仏の骨が気管を圧迫していくのがわかる。 
息が出来ない。