14 : 稲男 ◆W8nV3n4fZ. [sage] 投稿日:2010/10/13(水) 20:36:00 ID:99i3wtg50 [4/5回(PC)]
見えもしなければ触れもしないその手を探り手を喉にやる。 
くふー、と空気の漏れる音がしている。 
それが自分の呼吸音だということもわからない。 
意識が白い手のイメージに埋め尽くされる。 
力が抜ける。 
積もる雪のように、真っ白に埋め尽くされ、埋め尽くされ、 
うめつくされ。 
手。 
遠くで声が聞こえる。 
この声は誰のものだったか。 
「うごくなよ」 
言葉は入ってくるが、意味が理解できない。 
どん、と肩を突かれた。 
そのまま床に押し倒される。 
首元に風を感じた。 
直後、気管が元通り広がる。 
「はぁっ!はっ、せんぱ」 
当たり前と言えば当たり前だが、声の主は先輩だった。 
金属バットで肩をぽんぽんと叩いている。 
「危なかったな、おい」 
状況が飲み込めない。 
「え、と、どういう」 
先輩は笑った。

 
15 : 稲男 ◆W8nV3n4fZ. [sage] 投稿日:2010/10/13(水) 20:40:58 ID:99i3wtg50 [5/5回(PC)]
「まあ全部説明するとな。あいつは俺やお前みたいな『見える』奴に憑くタイプでな。たまたま通りがかった俺に喜び勇んで憑いたはいいんだが・・・・・・」 
恐らく、だが。 
たまたまでなく、自分の意志であの手のいる場所を侵しに行ったのだろう。 
「あいつにとって俺は、文字通り手に負えない相手だった。だが諦めるのも嫌だ。それで俺の周りをぐるぐる回ってたんだ」 
ああ、わかってきた。 
つまり、俺は・・・・・・ 
「ルアーですか」 
先輩は楽しそうにくっくっと笑う。 
「その通り。俺ほどじゃないけどそれなりの奴ってことで、お前に白羽の矢が立った。そして俺の予想通り、あいつはターゲットをお前に定め」 
「襲い掛かった。で、夢中になってる間に、こいつで吹っ飛ばしてやった。いいスイングだったろ」 
はぁああああ。 
深い深い溜息が出た。 
先輩の安眠の為に、俺はその命を危険に曝したわけだ。 
「先輩、その金属バット借りていいですか」 
「だめ。殴るだろ、お前」 
さ、寝ろ寝ろ、と言って、先輩はまた布団に寝転がった。 
「詫びとか無いんですか」 
先輩の背中に話しかけてみる。 
「死なせるつもりは無かった。それは本当だ。なにせお前は俺の」 
その先は良く聞こえなかった。 
聞き返してみるが、先輩はもう寝息をたてていた。 

その夜はもう何も出なかったが、エアコンの無い部屋はとても蒸し暑く。 
先輩の言った事が気になったのもあって。 
結局、とても寝苦しかった。 

先輩と手首 終