259 : 自治スレでローカルルール他を議論中[sage] 投稿日:2010/10/20(水) 03:44:51 ID:FvIqLguQO [1/4回(携帯)]
今日も眠れない仮眠時間。 
  
 マンション 
  
雨が降り頻る深夜に俺はAから呼び出された。メールには面白い物が見れると書いてあった。 
安いビニール傘を開いて、部屋から外に出る。ざあざあと降り頻る雨に濡れたアスファルトを歩く。 
暫く歩いて、目的地についた。入居者が殆ど居ない古いマンション。度々霊の目撃証言が出る、幽霊マンションだ。 
深夜だからということもあるのだろう。部屋の明かりは皆一様に落とされていた。 
誰も暮らしていないように思える団地の駐車場には、車は一台も停まっていない。そんな寂れた駐車場に、人影を見つける。 
「よう」 
Aが居た。 
家着である黒いスウェットの上に、鋲をアホみたいに打ち込んだ革ジャンという、彼女なりの『深夜にコンビニへ行く時の格好』で。

 
260 : 自治スレでローカルルール他を議論中[sage] 投稿日:2010/10/20(水) 03:46:15 ID:FvIqLguQO [2/4回(携帯)]
「あのアホみたいにフリルが付いた黒い傘はどうしたよ」 
「ありゃ日傘だ」 
俺と同じく透明なビニールの傘を差したAは、こっちだと言って歩き出した。 
Aを追いながら、俺はAが言う面白い物をあれこれと考える。 
ここは確かに心霊スポットではあるのだが、滅多に恐怖体験目当ての人間が入ることは無い。 
なにせ、数は少なくても確りと人が暮らしている場所で、怖い思いをしたいなら、もっと有名な場所がある。 
このマンションは、心霊スポットとしてはかなりマイナーだった。 
「ここだ」 
Aが足を止めたのは、錆の浮いた外灯の下。外から各部屋の玄関が見える位置。 
「ここの怪談を知ってるか」 
「階段を降りてくる子供の足音だろ。まさかそれじゃないよな。それだったら前にも見た、というか聞いたぞ」 
俺がまだ足も無い中学生だった頃、友人達とここに来た事がある。そこで俺は、異様な勢いで階段を駆け降りる音を聞いている。 
……子供の足音かどうかは、解らなかったが。 
「それを聞いて安心した。面白いぞ」 
Aはどこを見ているかはっきりしない目で俺を見て、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。 
「雨の日限定。おら、そろそろだ」 
そう言ってAは、傘越しにどこかを指差した。



261 : 自治スレでローカルルール他を議論中[sage] 投稿日:2010/10/20(水) 03:47:44 ID:FvIqLguQO [3/4回(携帯)]
指差したのはマンションの六階。 
Aが指差した先を俺は凝視する。かり、と左耳から音がした。 
見たから鳥肌が立ったのか、それとも鳥肌が立ってからそれを見たのかは解らない。 
  
居る。 
  
……女だ。 
Aが指差していた場所、六階の部屋の玄関前に女が立っている。 
女はぼうっと立ち続けていたが、やがてふらりと身を乗り出す。 
あ、と思った。 
女は六階から転落した。 
ぞ、と背筋が凍える。自殺だ。それも、幽霊の自殺。 
落ちた女は動かない。 

「それで、」 
Aが呟く。俺はAの横顔を見る。Aは何も言わず、また指を差した。 
促されるように視線を引き戻すと、音がする。たんたんたんたんたんという、大急ぎで階段を駆け降りる音が。 
たんたん、たんたんたん、……たん。 
音が止んだ。 
いつの間にか、落ちた女は消えていた。



262 : 自治スレでローカルルール他を議論中[sage] 投稿日:2010/10/20(水) 03:48:59 ID:FvIqLguQO [4/4回(携帯)]
「な、面白かっただろ? あの女、毎回毎回ああやって落ちるんだ」 
帰り道、今まで何度かあれを見た事が有るらしいA言った。 
「……まあ、自殺する幽霊なんて見たのは初めてだ。けど、いまいち訳が解らない」 
雨は止みそうになかった。俺達は透明なビニール傘を差し、歩き続ける。 
「まんまだよ。子供の足音。落ちた母親に驚き、階段を駆け降りる子供」 
「……何となく想像はついてた。でもよ、何で姿が見えないんだ」 
そこが解らなかった。俺に見えないならまだしも、Aにも子供の姿が見えないらしい。 
Aは暫くの間黙っていた。ざあざあと降り頻る雨の音が続き、ようやくAは口を開く。 
「あれは多分、あの母親が聞いた音だ。落ちてから意識が切れ、死ぬまでの間に聞いた最後の音。 
 我が子が自分を案じて階段を駆け降りる音。……あの女は、それが聞きたくて何度も自殺してるのかもな」 
「……成程」 
 やけにしんみりとしたAの口調に、俺は妙に納得してしまった。 
そんなことがあるのかという疑問は、そんなこともあるのだろうという諦めに似た納得に変わる。 
「或いは」 
唐突に立ち止まったAが言う。そのまま数歩進んでしまった俺は、Aを振り返った。 
「あの女の願いなのかもな。死ぬ瞬間くらいは、我が子に自分の身を案じて欲しい。自分の子に、側に来て欲しい。 
 実際には来なかった自分の子を、実際には孤独だった自分の死を、ああやって補完しているのかもしれない」 
どっちだろうなあ。 
Aは呟き、それきり、別れるまで口を開かなくなった。 

  
 マンション、了



263 : 自治スレでローカルルール他を議論中[sage] 投稿日:2010/10/20(水) 06:26:29 ID:NBa9klCp0 [1/1回(PC)]
面白かった!おつ!