359 : 俺 ◆cLBpi8LhvQ [sage] 投稿日:2010/10/23(土) 01:46:12 ID:rZanC2L7O [9/12回(携帯)]
動き始めた十円玉は答えを示す。示された回答は、十円玉が止まった場所は、 
  
『いいえ』。 
  
Bは混乱した。こっくりさんじゃない。なら、誰が。 
  
「あっ」 
  
そう声を上げたのを今でも忘れられないとBは言う。 
居る。この場にはもう一人居る。目の前に居るじゃないか。 
  
Bは、鏡の中の自分と目が合った。 
  
十円玉を動かしているのはこいつだ。十円玉を動かしているのは自分だ。 
  
Bは鏡に映る自分を威圧するように気合いの声を上げた。体からすとんと何かが落ちたような気がする。しかし右手は十円玉から離れない。 
もう一度気合いの声を上げた。Bは左腕を振り上げ、鏡に向けて拳を叩き付けた。

 
360 : 俺 ◆cLBpi8LhvQ [sage] 投稿日:2010/10/23(土) 01:48:18 ID:rZanC2L7O [10/12回(携帯)]
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鏡が割れた音は聞こえなかったそうだ。砕け散った鏡から目を逸らし、椅子に座ったままのBは、気が抜けて暫く動けなかったという。 
その内Bの気合いか教室から逃げ出した三人の叫び声か、どちらかを聞き付けた教師がやってきて、Bは酷く叱られたそうだ。 
  
「凄いな」 
Bの話を聞き終えた俺は始めにそう呟いた。 
話の始めを聞いた時は、こっくりさんを呼ぶふりをしたらホントにこっくりさんが来てしまったんじゃないかと予想していたが、 
こっくりさんに憑かれたふりをして信者を騙す予定だった幼馴染みを騙したら、いつのまにか自分が、 
というのは予想外だったし、 
自分が体験した、Aの言う所の『自己霊に憑かれる』というのにダブるような気がしたからだ。 
「自分に憑かれるっていうのなら、俺も経験があるなあ。体が動かないって事は無かったけど」 
「自分に憑かれる?」 
「いや、分かんないけどな。自己霊だったか自分霊って言って、自分の生き霊が自分に憑くってことがあるみたいで。 
 Bが今話したのも、それに近いのかと思たから」 
「なるほど」 
Bは自分に憑かれるという考えがなかったらしく、真剣な顔で頷いた。 
「実はあの一件以来大きい鏡が苦手で。今でも大きい鏡を見る時は覚悟してましたが……自分の生き霊、ですか」 
「覚悟?」 
「鏡を割る覚悟ですよ、正拳突きで」 
俺は正拳で鏡を割る胴着姿のBを想像し、ちょっと笑ってしまった。 
Bもおどけるような笑みを浮かべ、綺麗な眉をくい、と上げてみせる。 
「……それで、幼馴染みは懲りてくれた?」 
「それは、」 
  
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364 : 俺 ◆cLBpi8LhvQ [sage] 投稿日:2010/10/23(土) 02:11:58 ID:rZanC2L7O [11/12回(携帯)]
さるさん引っ掛かった 


Bの幼馴染みは結局懲りたりはしなかったらしい。 
Bは教師に何か言われても 
「一人でやった」 
と答えたそうだが、Bの幼馴染みは 
「Bは実は霊感が強く、悪霊が憑いていて危険。あのこっくりさんもBが滅茶苦茶にした。Bには近付かない方が良い」 
と吹聴して回ったそうだ。 
「なかなか当たってるじゃないか」 
とBはおかしくなったと言う。自分には確かに霊感があり、悪霊はついていないがあのこっくりさん滅茶苦茶にしたのも自分だ、と。 
Bは何も言い返さずに幼馴染みと付き合うのを止めた。幼馴染みの信者から怖がられたり徹底的に無視されたりしたが、 
「かえってそれが良かったかもしれないですね。他の人にまで無視されたりしないように、人当たり良くしようと頑張りましたから。 
 それでもやっぱり、寂しいですが」 
とのこと。さっぱりしてるなあと凄く感心すると同時、暴露してやりゃ良いのにと思った俺は、器が小さいのだろうか。



365 : 俺 ◆cLBpi8LhvQ [sage] 投稿日:2010/10/23(土) 02:13:00 ID:rZanC2L7O [12/12回(携帯)]
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事の顛末を全て聞いた俺は、ふと一つ聞き忘れていることに気付いた。 
「十円玉はどうした?」 
「ああ、言ってませんでしたね」 
Bは財布から十円玉を取り出した。所謂ギザ十のそれを俺に見せる。まさか。 
「捨てなかったのか」 
「ええ。こっくりさんでは使った十円玉はさっさと使うのがルールですが、あれはこっくりさんなんかじゃ有りませんし。 
 逆に捨てたら祟られそうだと思って持ってましたが……さっきの話を聞いて手離さなくて良かったと思いましたよ」 
俺は首を傾げる。 
「すまん、さっきの話って」 
「ほら、自己霊の話ですよ。この十円玉を手離すというのは、自分を手離すのに近い意味が有るのかなって今思ったんです」 
そう言って彼女は財布にギザ十をしまった。その仕草はいかにも大事なものを扱うそれだった。 
後日、彼女は地元で大きな神社からお守りを買ってきて、それに十円玉を入れた。 
Bはきっと今も、あの時に使われた十円玉を大切に持っているのだろう。 
仕事で十円玉をお客様に渡したりする時、俺はたまにそんな事を考える。 

  
 こっくりさん、了。 

  
我ながら長いなあ。読んだ人いたら乙