436 : 3/4[sage] 投稿日:2010/10/25(月) 22:08:09 ID:FPmbdacs0 [3/10回(PC)]
私は首をかしげましたが、お婆さんは続けました。 
「あのおじいちゃんはねぇ、『かまいたちに』やられたんだよ」 

曰く、昔そのおじいちゃんが道を歩いていた時、突然足に力が入らなくなったかと思うと、そのまま倒れてしまい、 
見ると右足の膝下(すねの部分)の前半分が、まるで刃物に切られたように半月型に削り取られていたというのです。 
おじいちゃんはその瞬間ようやく激痛に気付いたらしく、声にならない声で絶叫し、 
自分の身体の下に広がる血だまりと、近くに転がる切り取られた半月のすねを見てただうろたえるしかなかったというのです。 

私はその話を聞いて絶句しました。 
今でもあのおじいちゃんの右すねの前半分は、まるで食べ終えたスイカの皮のように半月型に欠落しているというのです。 
そういえば夏場でも長ズボンを履いてたような……、 
そしてあの長ズボンの下の足を一度も見たことがないことも思い出します。 

しかしそんなことが本当にあるのでしょうか。枝葉では説明が付かない『かまいたち』。 
でもお婆さんは人を楽しませるのは好きですが、そのために嘘くような人ではなく、 
まして他人に関することで嘘を交え、それを第三者に娯楽として提供するようなことはしない人です。 
その時の私も、お婆さんが嘘を言っているようには思えませんでした。 
そして同時に思ったのです。 
「(はは~ん、もしやお婆さんがそのおじいちゃんにからかわれているのでは?w)」

 
437 : 4/4[sage] 投稿日:2010/10/25(月) 22:09:03 ID:FPmbdacs0 [4/10回(PC)]
お婆さんの語り口調からして、 
彼女は実際に、少なくともそのおじいちゃんの現在の傷跡は見たことがあるような口ぶりに感じました。 
なので、おじいちゃんが別の理由で出来た大けがを、自虐的にお婆さんをからかう材料に利用したのではないか…… 
と思ってお婆さんに尋ねます。 
「おじいちゃんが昔何の仕事をしてたか知りませんが、もしかして機械か何かで誤ってしてしまった大けがを 
後になって『かまいたち』ってことにしてお婆さんをからかった……ってことはありませんか?」 
するとお婆さんは「や~ね~w」と笑いながら、 
「あのおじいちゃんは人をからかうような人じゃないわよw」 
と言うのです。そしてすぐに今度は、 
「それにね」 
という言葉。 
あ、まさか……とその接続詞の続きを思わず先読みします。 
そして先読みの通りでした。 
「それにね、それが起きた時、私一緒にいたの。他にもたくさん一緒にいたの……」 
私の背筋にゾクゾクと嫌な感覚が走りました。見てたのか、そうか……。 
「皆見てるの。覚えてるの。あの日おじいちゃんのすねが、何もないのに突然切り取られた瞬間を……」 
足に力が入らなくなってとか、うろたえるしかなかったとか、そういうおじいちゃん視点の話は、 
後からお婆さんがおじいちゃんに聞いた、当時の感想らしいのです。 
先に聞いた話がおじいちゃん視点だったから、私はてっきり全部お婆さんがおじいちゃんから聞いた話かと思っていたのです。 

私は、今ではのんびりと暮らしているおじいちゃんの能天気な顔を思い出し、何とも言えない気持ちになりました。 
そしてお婆さんはそんな私の様子を伺った後、 
伏し目がちに畳の何処かを眺めながら、ゆっくり呟いたのでした。 
「……『かまいたち』は本当にいるのかも知れない」