721 : 4/5 便乗者 ◆iWdAqLU3ds [sage] 投稿日:2010/11/12(金) 21:14:57 ID:iJpxplwB0 [4/7回(PC)]

 …… 

痛みに噎せながら振り向いても、ただの明るい住宅街。近くに誰もいません。遠くにはちらほらと人影は見えますが……。 
あまりの日常の風景に、さっきまでの異常事態がすべて白昼夢だったかのような感覚に囚われてしまいました。 
しかし実際に背中はヒリヒリと痛い。ジンジンと痛い。そしてアイロンを当てられたように、熱いのです。 

家に帰った私は、鏡で背中を確認しようなんて思いませんでした。 
背中に手形でもついていたら嫌だったのもありますが、その頃私は鏡を見ない生活をし続けており、 
その規則をここで崩したくなかったのです。 
私は買い物の荷物をダイニングのテーブルの上に放り、すぐさまある家へと向かいました。 
近所に住む、仲の良いお婆さんの家です。 

チャイムを鳴らすと女性の声で応答がありました。お婆さんと二人暮らしだという娘さんの声です。 
50歳前後の落ち着いた声に自分の下の名前で応答し、家の中へと入れてもらいました。 


「あ~、あの拍手みたいな音ねぇ」 
しどろもどろな私の体験談を聞きながらも、落ち着いた様子でそう返すお婆さん。 
「拍手できるなんて羨ましいわぁw」 
そんな自虐ネタを言われても困ります。 
「でもね、あぁいうのは無視無視。もし人間じゃなかったら嫌だから、探らないのが吉」 
「確実に人間じゃないですよ~」 
「叩いた後すぐ隠れたのかも知れないじゃない? 何にせよ決めつけるとろくなことがないから……」 
決めつけるとろくなことがない。という言葉にはお婆さんのある意思が込められていました。 
私がその話を聞くのはもっと後のことなのですが、それより今はこの背中の痛み。どうしたら良いか、尋ねます。 
「放っておけば治ると思うけど」 
「え~、でも……」

 
723 : 5/5 便乗者 ◆iWdAqLU3ds [sage] 投稿日:2010/11/12(金) 21:29:30 ID:iJpxplwB0 [5/7回(PC)]
「不安なんだねぇw まぁ人間の仕業じゃないと思うなら……、ちょっと○○! 来てくれないかねぇ~!」 
娘さんの名前を呼んでいます。返事とともに、すぐに娘さんがタオルで手を拭きながら奥から出てきました。 
お婆さんは娘さんを自分のすぐ近くへと呼び寄せ、何か耳打ちをしているようでした。 
それが終わると、娘さんが私の方へと近づいてきます。そして畳に座る私の後ろに立ちました。 
お婆さんは椅子に腰かけたまま、「少しだけ我慢してね」と、微笑みながらも少し申し訳なさそうな顔をしました。 
私の後ろでは娘さんが「ゴメンね、ちょいと失礼~」と言いながら私の服の背中側をたくし上げました。 
続けて「あぁ……」という声。 
あぁって……。 
「え? 何ですか? やっぱり、どうかなってるんですか?」 
「ちょっとコレ外すね」 
「あ、はい……」 
「……それじゃあ、えい!!」 

 バシンッ!! 

張り裂けるような凄まじい音と、背中に激痛。 
「い、イッタぁ!!!!」 
私は思いっきり仰け反った後、すぐさま今度は前のめりに崩れ、畳の上に頭をゴンッと打ちつけました。 
それにも「痛っ」と呟いて、それからようやく上体を起こし、涙目でお婆さんの顔を眺めます。 
お婆さんはとても優しい顔をしており、私は背中にとてつもない痛みを背負いながらも、何故か安堵してしまいました。 
娘さんは一仕事終えたように「これでよし!」と言いながら、一回だけ私の背中を優しく撫でて、 
とっとと切り上げるようにまた奥へと戻って行きました。 
お婆さんはそんな娘さんの後ろ姿に「ありがとねぇ」と言った後、今度は私の目をまっすぐ見つめました。 

「幽霊にやられた痛みなんて、人間の痛みで上書きしちゃえばいいのよ」



724 : 便乗者 ◆iWdAqLU3ds [sage] 投稿日:2010/11/12(金) 21:34:41 ID:iJpxplwB0 [6/7回(PC)]
ありがとうございました(途中のご支援もありがとうございます) 


3/5での訂正……  × コの時型 → ○ コの字型 

失礼いたしました。