824 : 1/4 便乗者 ◆iWdAqLU3ds [sage] 投稿日:2010/11/25(木) 18:25:59 ID:VRYjfjyZ0 [1/4回(PC)]
『この街』 


私が以前住んでいた田舎は中途半端な田舎でしたが、町は豊かで人々も仲が良く、私も近所のお婆さんと仲良くさせてもらってました。 
これはそのお婆さんが、ある人から聞いた話です。 

その人は30代後半あたりの男で、私が生まれるよりもずっと前にこの町に引っ越して来たそうです。 
お婆さんと男は世間話をしたりといった近所付き合いをする仲になりましたが、 
ある日、彼は自分が引っ越してくる前の地元で起きた“ある出来事”をお婆さんに話しました。 


男がまだ地元に住んでいた頃、彼には妻がいました。しかし妻は赤ん坊(娘)を産む際に命を落としてしまったそうです。 
妻の葬儀の後、お坊さんが男にこっそり話掛けてきたかと思うと、 
「奥さん亡くなった直後に言うのも何だが、ちょっと言っておかなければならないことがある」 
と前置きし、とんでもないことを話し始めました。 
「貴方の奥さんが亡くなったのはその娘さんのせいだ。娘さんは、言いにくいが、非常にまずいものをもって産まれて来た。 
何のせいかはわからんが、言うなれば貴方の娘さんは地獄をそのまま人間にしたようなものだ。 
娘さんが悪いわけでもない、貴方や奥さんが悪いわけでもない、ただ原因もわからないが、端から娘さんは厄そのものとしてこの世に存在している。 
きっと娘さん自身、今後の人生で友情にも愛にも恵まれず、死後成仏することもない。それだけでなく、彼女の親族……つまり貴方や、貴方の親族でもあるが、 
普通の人よりは長生きできんし、その子孫までにもそれは残るよ。そして貴方も彼らも死後成仏できんだろう」 

男は息を呑んでお坊さんの話を聞きました。そしてお坊さんは最後に男に対して深く頭を下げて言ったそうです。 
「こんな時にこんな話をして本当に申し訳ない。ただ知っておいてほしかった。覚悟をしておいてほしかった。 
何せ娘さんが産まれたことで貴方たち一族が背負うことになったこの災い、私にはもう、どうすることも出来ないので」

 
825 : 2/4 便乗者 ◆iWdAqLU3ds [sage] 投稿日:2010/11/25(木) 18:28:35 ID:VRYjfjyZ0 [2/4回(PC)]
それから年月が経ち、娘が3歳になった頃。男は娘を小さな託児所に預け、時には土日も仕事へ向かうような忙しい日々を送っていました。 
娘は、言葉も教えていた割に口数が少なく、表情も乏しく、託児所でも一人ぼっちで、話しかけられても無反応な子になっていたそうです。 
男はそんな娘の様子を見る度に、あの日お坊さんに言われたことを思い出していました。 
そして彼自身、霊感と呼ばれるものなど持ち合わせていないにも関わらず、娘そのものに言い知れぬ違和感というか、妙な空気を常に感じ取っていました。 
それは後で考えると「負」、つまり「マイナス」という言葉がしっくりきたそう。 


そんなある日のこと、男の住むその町をある出来事が襲いました。 
映画化もされた、有名な大水害です。 

それは男が託児所に娘を預けたまま職場にいる時に起きました。 
男はもともと危機意識の薄い性格であり、さらに当時その町の人々の間では水害と土地との関係等の知識が一般的でなく、 
多くの人が事を甘く見ていました。男もこれぐらいの暴風雨なら大丈夫だろうと、託児所を信用し切っていたそうです。 

男がそもそも自分自身が職場から出られない状況であると気付いたのは、職場の建物が停電し、同僚が外の様子を見ようと玄関まで向かってからでした。 
同僚に呼ばれて皆で玄関へ向かうと、玄関がまるで浴槽のように水を波打たせていたそうです。 
雨戸で塞がれた窓から外の様子など知ることもなく、暴風雨がここまで町を水没させていることに皆気付いていなかったのです。 
しかしそれでも、この水没がまだマシな方だったなんて、彼らは知る由もありませんでした。 
男が後に知る、自分の家や託児所のある南西地区の状況は、こんな生易しい水没などではなかったのです。 

渦巻きのような巨大な天気とともに暴風雨が過ぎ去り、汚い湖だけが残された町の中。 
男はその湖に足止めされ職場に束縛されている中でも、状況の知れない南西地区での災害程度もここと同じぐらいの状況だろうと高をくくっており、 
停電状態で情報も入らなかったこともあって、その時すでに数千もの命が失われいていることなど夢にも思っていなかったのです。