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「アケロアケロアケロアケロアケロアケロアケロ 
アケロアケロアケロアケロアケロアケロアケロアケロ 
アケロアケロアケロアケロアケロアケロアケロアケロ 
アケロアケロアケロアケロアケロアケロアケロアケロ 
アケロアケロアケロアケロアケロアケロアケロアケロ 
アケロアケロアケロ」 

「ひたすら『アケロ』と呟く声が聞こえた。 
びっくりして離れようとしたが、耳が離れない。 
それどころか、さっきまで耳が感じていた 
金属の冷たさがいつの間にか消えていた。 
次の瞬間、真っ黒の表面から赤黒く爛れた2本の腕が出てきて、 
彼の頭をわしづかみにした。抵抗する暇もなく、 
小学生は真っ黒の金属板の中に引きずり込まれた。 
そして、そこで夢から覚めた」
「夢から覚めた小学生には、もはや恐怖心などかけらもなかった。 
ただただ、夢だけでなく現実の金属板も確認したい、その一心だった。 
彼は既に、あの金属板に取り憑かれていた。 
小学生には確信があった。あの時はびくともしなかったが、今なら開けられる。 
夢であけた自分だからこそ開けられる、そう信じて疑わなかった」 

「もはや夢など待たずともよい、 
すでに金属板以外のことなど考えられなくなっていた小学生は、 
親に黙って再び神社に向かった。 
そして、小学生はそのまま行方不明になった。 
夢と同じように、金属板の中に引きずり込まれたのか、 
あるいは別のことが起きたのか、それは定かではない。 
結局あの金属板が何だったのか、それは誰も分からない。 
知っているのは、小学生と、蓋をした『誰か』だけだ」

田所君の話の面白いところは、創作にもかかわらず 
話のラストで全てが明らかになるわけではない、というところだ。 
この「蓋の話」にしても、結局その金属板が何なのか分からずじまい。 
話が終わり、ひとしきりブルッた後、俺たちは話の続きというか 
あの金属板が何だったら面白いか、という話題で盛り上がった。 
ありきたりだが、あの世に繋がっている鏡、というのが多数だった。 
あの世じゃなくて地獄だ、いや精神世界だ、鏡じゃなくて時空のゆがみだ、 
といろいろな想像を話して楽しんだ。 
だが、何故か分からないがみんなその話に小さな違和感を感じていた。 

そしてその後、田所君が伝説となった出来事が起こる。

田所君は翌日、学校を休んだ。 
そもそも体調不良で1週間休んでいたこともあり、 
また具合が悪くなったんだろうか、と誰もがそう考えていた。 
しかし、田所君はその翌日もそのまた翌日も学校を休んだ。 
そんなに悪かったのか、と不安になった俺たちは、 
先生の元にいきお見舞いに行きたいです、と言った。 
ところが、先生は首を横に振った。 
先生いわく「田所君のところは今大変だから、見舞いには行くな」 
俺たちは驚いた。大変て、もしかしてかなりやばい病気とか? 
ひょっとして、あの日無理してたのか? 
など、さまざまな憶測が飛んだ。 
そして田所君が休んで約2週間、先生の口から事実が語られた。 

田所君はあの日、「蓋の話」をした日から行方不明になっていた。

先生も、田所君の親があまり話そうとしないので 
詳しい話を知っているわけではなかったが、 
どうやら田所君は、「蓋の話」をした日家に帰らなかったようで、 
それ以来行方が分からなくなっているらしい。 
既に警察も動いていて、誘拐もありえるとのこと。 
彼の最後の目撃情報は、「蓋の話」をした夕方、最寄の駅で見かけたというものだ。 
いったい田所君はどこに行ってしまったのか。 
駅以降の田所君の足取りをつかめないまま1月が経ち、 
警察も継続捜査という形で対策本部を解散した。 
田所君の家族もそれを了承したらしい。

だが、俺たちは田所君の居場所を知っていた。 
あまりにもばかばかしくて、でもそれ以外ありえないと思っていた。 
それに気付いたのは、先生から田所君が行方不明になったと 
聞かされた日の放課後だった。 
その日から公開捜査に切り替わり、誘拐の線もあるから、 
ということで午後の授業は中止。帰りはもちろん集団下校。 
一度家に帰り、その後近場の公園にみんなで集まった。 
「行方不明」というあまりに日常からかけ離れた事態に 
どうしていいかわからず、その日はみんな静かだった。 
ぽつぽつと彼の話をしているうちに、 
その場にいたみんなが同時にあることに気付いた。 

田所君は「蓋の話」をしたとき、言うべき言葉を言わなかった。 
あの時感じた小さな違和感の正体。それは、彼の話に 
「これは僕が考えた話なんだけど」 
という言葉が抜け落ちていたことから来るものだった。 
それに気付いた瞬間、全員が「ああ、そういうことだったのか」と奇妙に納得した。

あの話は、実話だったのだ。 
話の中に出てきた「小学生」とは、田所君自身だったのだ。 
彼は、彼の話してくれた内容に違わず行方不明となったのだ。 
怪談先生グレートは、文字通り自ら「怪談」になった。 
そう考えると、不思議と悲しくはなかった。 
やっぱりあいつ、グレートだな。誰かがポツリといった。 
みんなの心のうちを代弁する言葉だった。 
田所君の最後の怪談は、彼自身の話。そして彼は伝説となった。 

これが、田所君の話した「創作ではない話」の二つ目だ。 

あれから20年が経ったが、田所君は今でも見つかっていない。 
田所君の親もすぐに引っ越してしまい、祖父母の田舎はどこなのか、 
とか写真やスケッチの話を聞くことはできなかった。 
今から考えればずいぶんとムチャクチャな結論なのだが、 
俺たちの中では彼に敬意を払う意味も込めて 
彼の行方不明の原因は「金属板」だとしている。 
当時のクラスメイトで同窓会をするときは 
「自ら怪談となったグレートに乾杯」が決まり文句だ。 

以上が、田所君にまつわる話だ。