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おそらく4歳頃だったと思う。 
俺は熱を出して、和室で一人で寝かされていた。 
ふと、気づくと枕元に人の気配がした。 
母親が様子を見にきたのだと思い、目を閉じたまま話しかけたのだが返事がない。 
変だと思い目を動かすと、ギリギリ視界に入るくらいのところに、髪の長い女が正座しているのが見えた。 
女は俯いていて顔はみえなかったが、母親とは違うことはわかった。 
恐怖よりも、誰だろ?という気持ちが強く、そのうちウトウトと寝てしまい、次に目覚めたときは誰もいなかった。 
あとで家族にきいたが、そのような女はいなかったということだった。 

同じようなことが、数年に一度のペースであった。 
いずれも、俺が高熱寝込んでいるとき、枕元の視界に入るギリギリのところに、俯いていて顔のみえない髪の長い女が正座しているってパターンだ。 
ただ、女は必ず、視界ギリギリのところにいて、ぼんやりとしかみえない。 
何回も試みたが、はっきりとみようと起き上がると消えてしまいみることが出来ない。 
視界ギリギリのところにいつも存在するのだ。

中学、高校になると熱で寝込むこともなくなり、当然女をみることもなくなった。 
久しぶりに女が現れたのは大学で一人暮らしを始めたころだった。 
不摂生をしていたせいか、その頃は寝込むことが多かった。 
いつものように、枕元にその女は正座していた。 
実家からはなれて、自分についてきたのかと、驚いたのとともに、いつもと違うなんともいえない違和感を感じた。 
そのときは、久しぶりの出現だったことと、実家ではなく下宿先に出てきたせいだと無理やり思い込んだのだが、その次に出現した時にその違和感の正体に気付いた。 
明らかに女の体の角度が違うのだ。 
以前より前のめりになっている。 

その次に出現した時は、さらに前のめりになっていた。 
その次は、かかとをあげていた。 
どうやら、女は、正座から、徐々に腰を浮かして立ち上がる体勢に変化しているようだった。 
まるでコマ送りの静止画像のように、徐々に変化している。 

実は、俺は、何故か今までその女に対して恐怖を感じたことがない。 
しかし、立ち上がると気付いた瞬間から、言い様のない恐怖を感じ始めていた。 
完全に立ち上がったときどうなるんだろう。 
全てが終わるのだろうか。 

最後に女が現れたのは今から二年前。 
そのとき、女はもうほとんど立ち上がっていた。 
顔も口元が見えはじめた。 
次に現れるときが最後だと思う。 
そう思うと、ここで寝込んで女が出現することがないよう、この二年間手洗いうがいを欠かした事はない。 
もちろん、インフルエンザの予防接種も欠かさず、超健康に気遣った生活を送っている。