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3年位前から為替を始めたんだが、向いていたんだか、ラッキーだったんだかで、4000万の原資が6億ちょいまで増えたんだ。 

なんで、親孝行も兼ねて、丁度売りに出てた隣の家を買い、元々住んでた家ともども更地にして二世帯型の住居を建てることにした。 
で、この時俺が拘ったのが、防音設備の整った地下室。 
カラオケが趣味だったんで、専用のカラオケルームにしたかったんだ。 

地鎮祭も無事終わって着工後は、毎日差し入れ持っていったりして、工事が進んでいくのを楽しみに見てた。 
そんなある日の夕方、現場監督から携帯に連絡が入った。何かあったのか聞くと、「大した事じゃ無いが、ちょっと来てくれ」とイマイチ要領を得ない。 

でもまあ、家が建つまでの間借りてるマンションからはバイクで10分程の距離なんで、特に何も考えず現場に向かった。

ところが現場に着くと、地下の基礎工事をしてた場所がブルーシートで覆われてるの。見た瞬間いや~な予感がしたんだけど案の定、 
「ゴロゴロ出たんですが、どうします?」との事。 
俺の住んでる町は、頻繁にこういう事があって、正直に届け出ると、調査やらなんやらで下手すりゃ一年以上工事がストップされる。 

しかも、それに対する補償なんかは一切無いんで、何も見なかった事にするのが暗黙の了解になってる。 
事件性があるような新しいものでは無さそう(まあ明確な根拠はないんだろうが)との事なんで、知り合いの寺に謝礼を包んで引き取って貰って、再度地鎮祭もやり直した。 

その後は特に何事も無く、10ケ月掛かりで夢のマイホームが完成し、大安吉日を選んで両親共々引っ越した。 

家具やガーデニングの相談をしながら、デパートやら家具屋やらを廻ったこの頃が一番楽しかったな…

異変が起こったのは暑くなって来た5月初旬。今年はやけに寒暖の差が激しい日が続いてたんだが、地下にいると殆どその影響を受けない事に気が付いたんだ。 

こりゃあいいってんで、簡易ベッドを運び込み、夫婦揃って寝室代わりに使うようにしてた。 

そんなある日、突然妻が死んだ。夜間、トイレに立った際に、階段から落ちて打ち所が悪かったらしい。 

俺は寝付きが深い方なんで全然気が付けなくて、朝起きて、恐怖に歪んだ表情のまま、頭から血を流して倒れてる妻の前で暫く呆然としてた。 
そして、地下を寝室になんて提案をしなけりゃ良かったと猛烈に後悔し泣いた。 

けど、それだけじゃ済まなかった。現場検証が終わった翌日、警察から呼び出しを食らって、妻の落ち方がオカシイと言われた。 
足を踏み外したんじゃ無く、誰かに突き飛ばされないと、こういう落ち方はしないと言わた。それと、階段なんかで不意に転落した人の場合だと、何が何だか分かんない内に死んじゃうんで、表情は意外と安らかなんだと。 

なのに妻の場合は、顔が恐怖にひき歪んでたのもオカシイ。俺がやったんじゃないかって何時間にも渡って尋問された。

勿論俺に心当たりは全く無い。子供こそ出来なかったものの、夫婦仲は頗る良好だったし、両親との折り合いもとても良かった。 
二世帯住宅にしたらと言ってくれたのも妻の方からだった。 
経済的には、家一軒建てても一生遊んで暮らせる余裕はあったし、妻に掛けてた保険はガン特約がメインのものだけだった。 
結局、その後三回事情聴取を受けて解放されたんだが、その間に今度は父が死んだ。 

俺が事情聴取やら何やらでゴタゴタしてる間に、妻の遺品の整理とか、葬儀の仕切りとか、色々やっててくれたんだけど、 
正に三回目の事情聴取の真っ最中に地下室で倒れているのを母が見つけたらしい。 
取調中にその事を告げられ、年甲斐もなく泣き叫ぶ俺を持て余したのか、パトカーで無理矢理自宅まで送還された。

帰ったら母の憔悴っぷりも酷かった。年齢よりも若く見られることが自慢だったのに、一気に10歳位歳をとった様に見えた。 
お互い必死に涙を堪えながら、葬儀の打ち合わせとかしてたんだけど、その最中に母が「この家に越してから碌な事がないね…」と言った。 

その瞬間、今まで感じてた理不尽に対する怒りが一気に爆発して、母に対して当り散らした。頭のどこかでこれは言っちゃいけないって分かってる様な酷い事まで、我慢できずに喚き散らした。母は俯いて聞いていたけど、耐えられなくなったのか逃げるように部屋を出て行った。 

そして多分そのあと直ぐに、自室で首を吊った。 
翌朝頭が冷えたから、謝ろうと思って部屋に行ったら、母が鴨井に帯を掛けてぶら下がってた。思考が停止したまま、3時間位ボーっとその姿を見てた。 
警察に連絡したら、事情聴取で何度かあった刑事さんが来て、色々と言ってた。 
その後の事は、思い出そうとすると、なんだか頭に霞が掛かったみたいになってて、今一リアリティが無いんだけど、 
葬儀社に世話になりまくったのは覚えている。

今は、自分以外にはもう誰も居ないこの家の地下に、明かりも点けず引きこもってる。 
時々壁一面に人の顔が浮かび上がるんだ。老若男女、表情も様々なんだけど、その中に、妻と両親の顔もある。 
色々と不幸な事が重なったショックで、統合失調症でも発症したのかもしれないと思い、デジカメで撮影を試みたんだけど、 
シャッターが下りないか、下りた場合は普通に防音壁が写るだけだ。

最早俺が生きていく意味も、気力も無いから、この文章を書いたら自裁するつもりだったんだが、書いている内に決心が固まったよ。 
妻や両親には会えないかもしれないが、こいつらに取り込まれるのは嫌だから、余所に行くわ。 

株券とか、インゴットは、地下の備え付けの飾り台の裏にある隠し金庫に残したままにしとくから、この家を購入した奴にやるよ。 
某観光都市で、築一年以内の大き目の地下室のある二世帯型住宅だ。 
ただし、ここには間違いなく何か居るから、少なくとも俺の妻や両親は捕まってるから、気を付けてな。