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大学生の頃貧乏旅行した時、半日電車に乗っていて深夜てっぺん近くに関西本線の某駅で降りた。何もない田舎なんだけど翌朝行きたい史跡の最寄りだからここの近くのネカフェに泊まろうと思って調べたらネカフェあるにはあるんだけど、駅からちょっと遠いんだ。 
仕方ないから重いショルダーバッグ担いで線路沿いの暗い道をよたよた歩いてた。 
街灯がチラホラ立ってたんで真っ暗ではなかったんだが人通りも開いてる店もなくてちょっと怖かった。 
15分くらい歩いていると先の方が林みたいになっていて木の影がたくさん見えた。うわ嫌だなあと思ったが今更引き返せないし腹くくってそのま歩き続けた。 
だんだん林が近付いてくる。街灯もこの辺りには立ってなくて真っ暗。 

だからそろそろ携帯のライトを付けなきゃなと思い始めた頃だった。 
林の向こうからヘッドライトが見えた。近づいてきてタクシーだと判った。
空車みたいだ。 
手を上げようかと思ったが金ギリギリしかなくてネカフェまでいくらかかるか不安だったから迷った。 

ああ通り過ぎちゃうと思ったら、すれ違う時に不自然にスピードを落としたんだよ。あれっと思って運転席を見ると髭面のおっさんがこっちを見て何か合図してるの。 
車の進行方向(つまり俺が来た方)を指差してその後左方を指差した。立ち止まって通り過ぎた車のテールランプを眺めながら首を傾げていると、 
車が100メートルほど先で不意に左折した。ウィンカーを出さずにいきなり曲がった。 

俺はさっきの合図と照らし合わせて、ついて来いということかなと思ったが、正直怪しくて躊躇った。 
構わず先を急ごうと前を見たが暗い林を見るとさっきよりも不気味に思えてよし、と引き返したんだ。 
角を曲がるとなんと200メートルも先に車が停まってた。ますます怪しいのだがここまできたらとそこまでよたよた歩いていった。バッグのベルトが肩に食い込んで痛かった。 
車の側まで行くと運転席の窓が下りておっさんが顔を出した。 

「どこに行こうとしてた?」いきなりそう訊いてきた。 

「いやあの、××っていうネットカフェに行こうと思ってたんですけど」 

「乗って。行くから」 

「え、でも……」 

「初乗りでいいから。乗って乗って」 

「はあ」 

俺は怪しいと思いながらも成り行きに流されふらふらと乗ってしまった。

後部座席に乗り込んでバッグをドスンと下ろしたら運転手がすぐに言った 

「あそこ曲がる前に伏せて」 

「は?」 

「さっきの道に戻る前に伏せて。座席の前にしゃがみ込んで。荷物も」 

「ええ?なんでですか?」 

「後で説明するから。俺がいいと言うまで動かないで」 

訳が分からないまま俺は言うなりになって足元にしゃがみ込んだ。
バッグも下に落とした。 
運転手はちらっとこっちを見てそのままでねと言った。 
窓の外は空しか見えない。やがて右に曲がったようだった。直進する。ほどなく林に入ったと見え窓に木の茂みが流れていった。 
林を抜けるのに結構長くて30秒くらいかかった。運転手はあれきり無言のまま。 
いつまでこうしてなきゃならないんだろうと思いながらも
喋りかけ辛くてしゃがんでいた。 
ふっと嫌な想像が頭を掠めた。このままさらっていく気じゃないだろうな。こっそり外を見ようか。そろそろっと頭を上げ始めた時、運転手が言った。 

「着いたよ」 

外を見るとそこは確かにネカフェの前だった。 

「ありがとうございます」 

メーターは回ってなかった。運転手は初乗り料金を告げ俺は払った。 
このまま降りようかと思ったがやっぱり気になってなぜしゃがませたのか、そもそも最初の合図は何だったのかを訊いた。 

「いたんだよ、あそこに」 

「え、どこですか?」 

「林を通っただろ?あそこな、時々おかしな奴らが待ち伏せしてるんだよ」 

「待ち伏せ……」 

「通りかかった奴を殴ってボコボコにして身ぐるみはいで、もう何人も被害に遭ってる。男も女も」 

「ええ?!何ですか、それ。警察は?」 

「捜査してるはずだが、一向に捕まらない。暗くて目撃者もいないせいか、他に何かあるのか。何にせよ地元の人間は夜は決して徒歩や自転車で通ったりしない」 

「とにかくそれで合図を?」 

「もう林まで近かったから、あからさまに停まったらバレる。獲物を奪ったと追っかけてこられたら面倒だからな」 

「しゃがんだのも僕を乗せてることを隠すためだったんですね」 
「ああ。じゃもう帰るから」 

「あっ、最後に一つだけ。なぜ今夜いると判ったんですか?」 

「血がね。ライトで見えたんだ。まだ乾いてなかった」