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さらに引きつった笑顔でKの方を見るんですが、Kは一向にこっちを見ないのでまた岬を見る。木が三本になってる。しかも確実にこっち側に寄ってる。 
と思った瞬間、ダーッとKが走って逃げ出した。 
「人だよY君!あれ人!人!」 

なんだかわからないことを叫びながら逃げ出すK。なんだかわからないけど確実に近づいてきている木のような何か。もうなんだかわからなくなりましてね、Kの後を追ったんです。 
右の階段を下りれば駐車場、というところで前方をみると、おや?って思った。 
あれ、電気がついてるぞ、と。 
前方の林道に続く道の脇に小屋が立ってるんですが、その小屋の二階くらいの位置に窓があって、いやーに黄色い明かりがポーンとついてて、その中に黒い人のシルエットがあるんです。 
うわっと思った瞬間、小屋のドアが開いて黄色い明かりと黒いシルエットが二、三人ばかりぞろぞろぞろっと出てきた。 
もうすごいスピードで逃げましたよ。階段を下りた記憶もないくらい。いつの間にか追いついてたKを車に押し込み、運転席に乗り込み、鍵を閉めてエンジンをかけるがこういうときに限ってなかなかかからないんだ。 
やっとのことでエンジンがかかるとそのあとはもうアクセルペダルべた踏みで左右確認もせず駐車場を飛び出すと地元のほうへ一直線ですよ。 
「あーこわかったなぁ。あーこえ。なんだったんだろなあれ、あーこえ」 
「そういえばY君。あそこの病院、やくざが管理してるって話も、聞いていたよY君」 
そういうことは先に言えと、なんとなくオチがついてほっとして帰ってこの話はおしまい。 

…そうだったらあーそっちのこわいはなしか、そういうのもあるんだね、で終わるんですがね、実はこの話、後日談がありまして。

それから数年、関西に住んでたころになりますかね、もういっぺん私ここに来ているんです。 
結婚式に呼ばれてだったか夏休みに突然だったか、何かしらの用事でここに来て、見覚えのある景色にそういえば、となって例の駐車場に車を止めていました。 
前回とは違い真昼間中の真昼間。おそろしさや気持ち悪さはまったくなくって、あーそいやあいつとここ来たな~。なつかしーな~。そんな気分からちょっと見に行ってみようか、って車をおりたんです。 
暗くて不気味だった階段は、よく見たらちょっとした低山のピクニックコースにあるような階段でした。林もいい木陰を作り出してまさにピクニックコース。こんなのをびくびくしながら上ったのかとおもうとちょっとおかしかったですね。 
上りきるとバーッと視界が開けて、丁字路。がけだと思ってた目の前にはちょっと低くなったところに畑が広がって非常に牧歌的。林道からそっちに下りる道なんかもありました。 
あーやっぱり車が通れるようになってるんだな、と思いながら病院の方を見ると相変わらずでかくて白くてカーテンがないけど、薄気味悪さはない。ドラム缶はなくなってましたね。 
岬には木は立っていませんでした。だけどその奥の林のてっぺんが、丁度岬にたつ木に見えないこともない、とも思えました。 
こういうところは二度来るもんじゃないな。まして昼間に来るもんじゃない。なんだかひとつ思い出がこわれたな、と思いながら帰ろうとふりかえると、あれ?まてよと。なーんかおかしいんだ。 
小屋がないんだ。いや正確には、小屋と呼べるようなものじゃなかったんだそこにあったのは。 
材木置き場。切り出してきた木をたぶん一時そこにおいておくんでしょうね、トタンで屋根と三面の壁を覆ってあるいわゆる普通の材木置き場。もちろん窓もドアもない。奥行き三メートルくらい。建て替えた様子もない。 
ありゃ、こんなとこから人が出てくるはずがないや。 
急にあのときのゾクっとするような寒さが甦ってきましてすぐ立ち去りました。 
結局あれはなんだったんでしょうね。今でもありありと思い出せる黄色い窓の明かりと人影、開くドアとこぼれる明かり。 
こういうなんだかよくわからない話、私、結構好きなんですよね。