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本格的な調査をはじめて最初にみつかったのはリフォーム業者。 
話を聞いてみると食いつきがよかった。 
本人が亡くなって契約も取り交わす前だったので 
連絡するのも憚られるしと困っていたらしい。 

まだやる気があるんですかというので 
だますようで申し訳ないと思いながらも、当時のメモをざっとみせてもらった。 
店舗スペースとその上を丸ごとリフォームするつもりだったらしい。 
当然店舗と二階の間の屋根裏も含まれる。 
返事を保留してとりあえずは帰った。 

ある日バイトのおじさんが先生の連絡先がわかったよと 
祖父のメモ帳を片手に教えてくれた。 
電話でアポをとってみるとまだご存命だった。 

「うちの敷居は跨がないでください」 
到着して玄関のベルをならすと、扉をあけた老齢の女性が血相を変えた。 
ぐいぐいとおされて玄関先から門の前まで追い返されてしまう。 
「話をきかせてください」 
「ここでなら」 
「祖父は、何をしようと」 
「…霊はいると思いますか?」 
「いると信じる人がいることなら」 
「います。そして人間にできることは少ないのです」 
「はあ?」 
「彼らもできることは少ないのです。 
 ただ、魔が差したり、夢見が悪いときは 
 人と霊の世界が重なりあっている場合もあります。 
 あなたの場合は、まず助からないでしょう」 
「…え…」

「強い霊に魅入られた人を救える人というのは 
 その霊と相性がよくて力が強い人です。 
 そんな人との巡り会わせなんてめったにあることではありません。 
 探し当てるまでにどれだけのお金、どれだけの労力がかかるでしょうね。 
 私があなたのお爺さんに教えたのは毒をもって毒を制する方法です。 
 怪異が起こるような物品を集めて、霊同士で縄張り争いをやらせている間は 
 彼らはそちらに集中して現世に手出しができません」 
「か、からかっているんですか」 
「いいえ。 
 …もう、私にもその人を見ることが出来ます。 
 集められた呪いの品々の怨念に勝ってしまったのですね。 
 人間と同じように百戦錬磨の霊は、強いのです」 
めまいがした。祖父は店の品を処分するなと遺言してた。 
捨てるなという意味だろうから、好事家たちに譲ろうと考えて 
店を再開したのが仇になったとでもいうのか。 
大分売れてしまっていることを思い出すと、いよいよひざが震えた。 
「どうすれば」 
「祟り殺されるその日まで、極力、外出しないことです」 
「は?…何、それ…」 
「人に迷惑をかけないようにすることでしかあなたは救われません。 
 今更あがいても呪いを深めるだけですよ。 
 せめて心穏やかにいきましょう。 
 死後もこの縁を引きずることがないように、精一杯がんばりなさい」 
「まって、あ、集めればいいんでしょ?そうしたら…」 
「見えないあなたがうらやましいわ。 さ、帰って」

一かバチか。リフォーム業者に連絡をとった。 
本格的な見積もりを出してもらうためにと誘って屋根裏にも入ってもらった。 
何か、助かる手立てが見つかるとおもっていた。 
すると、業者の男性が何かあるぞといって下りてきた。 
かなり古びたつづらを抱えていた。 
札がはられているとかいった様子はないので開けてみると 
中には女物の着物が何着も押し込められていた。 
底にびっしりと新旧いりまじった札がちりばめられている様が、 
業者の人たちをおののかせた。 
これらを見て、俺の心は決まった。 

「どうせこれまで彼女いないんだ。 
 もうこの際幽霊でもいいや。ついてくるっていうんなら好都合。 
 付き合ってやる!」 

大学から帰ったある日、こう宣言した。 
以降、こうなったら一目交際相手をみてやろうと 
バイトのおじさんに商品の値を下げていいといって 
棚という棚ががらがらになるまで売りに売らせた。

ある日、店舗で調べものをしているとと天井が軋む音が聞こえた。 
階段をかけあがって、店舗の直上の部屋にはいると 
そこに長い白髪の女が立っていた 
口は裂けたようで、肌は燻されたように黒い。 
襲いかかりそうなそぶりを見せた瞬間に、 
なんだか目の前が赤く染まったような気がして、気づくと逆にこっちから襲っていた。 
ものすごい抵抗をされたが、俺は目的を達成した。 
布団に押し倒してまさぐってまさぐってまさぐりまくって、脱童貞。 
途中から声なき声でめそめそ泣かれていたような気がしたが 
気にせずに一晩中かわいがってやった。途中からは抵抗もやめてなすがまま。 
害意っていうのが消えると、化け物じみた姿もそこそこ綺麗なふつうの女のものになっていた。 
目が覚めた時には、その姿はなかった。 

その後何もおこってない。大学も昨年無事卒業。今は研究職目指して院生。 
あれ以来あの女は見えもしない。 
唯一女日照りだけはどうにもなっていないが、ほかは絶好調。 
毎日祀った着物にさっさと出てこいと念じているが 
何の兆候もなくつまらない毎日だ。 
おびえたりなんなりしていた時のほうがよっぽど充実していた気がする。