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俺はその当時大学生だった。 
今時の大学生としてご他聞に漏れず、博打と睡眠不足と言う素晴らしい大学生活を謳歌していた。 
そんな堕落しきった生活を送り続けてきた俺であったが大学内で知り合った葵と言う名前の女の子と恋に落ちた。 

彼女は淡く赤く染めたソバージュに少し頬骨の張った小さな顔だった。身長もそれに合わせるかの様に小柄で 
非常に可愛らしい印象を受けた。正にこのような彼女が出来たのは俺にとって奇跡でありまた自慢でもあった。 
彼女が出来てから俺は自堕落な生活をなるだけ控え、事あるごとに葵との時間を大切にして様々な外の景色を 
見て回った。 
そんな永遠に続くであろう幸せな時間を数ヶ月過ごしてきたある日の事。 
俺は野暮用で地下鉄を数駅経由し、目的地から帰還しようと電車に揺られていた。 
その頃夜も大分に更けてきていたので夕刻ラッシュの乗客は殆ど少なくなっていた。 
乗客が少なくなった車両には俺と数人のリーマンらしき人物やOLが乗っているだけだ。そんな車両が 
ある駅に停車した時、一人の女が乗車し俺の目の前の座席に腰掛けた。 
年の頃は俺より少し上だろうか。よく手入れされた黒髪のストレートに身なりの良い、ブラウスに黒いタイトスカート 
を着こなしており顔もそれ相応に葵とは違った形の綺麗な顔立ちに見えた。 
女は疲れているのかずっと下を向いており寝ているのではないかと思うほど顔を上げなかった。 
そろそろ俺の降りる駅が次に差し迫ったところ、ふと女の方を見ると長い黒髪の隙間からこちらを見ているのが 
見て取れた。何故かそれが物凄く気持ち悪く思った俺は降りる時別の車両から出ようと移動した。 
しかし俺が立ち上がった際、女の強烈な視線を感じてもう一度目を向けてしまった。 
女は笑っていた。目は笑ってなく口元だけ別の生き物のように歪ませて。 
俺は極限まで不快感を覚え、足早に別の車両に移りこんだ。幸い女は追っては来ず、逃げるようにその電車を 
後にした。

それから数ヶ月か経った頃。すっかり地下鉄での出来事も忘れてしまい、幸せな大学生活を謳歌していた。 
俺は時間を見つけては葵とデートをしていた。 
その日も彼女の時間に合わせて大学とは遠い所にある街に赴き二人で何をするわけでも無くふらりふらりと 
歩いていた。 
時間が夕刻に差し迫った頃そろそろ帰らなければならない時間になった頃、彼女の手を引いていた 
俺は妙な事に気が付いた。彼女の手ではあるのだが何故か違和感を覚える。 
ふとその事が気になり繋いでいる手を見てから徐々に上に視線をずらしていった。 
綺麗な顔立ちから覗く強烈な視線、長い黒髪、白いブラウス、黒いタイトスカート。 
手の延長上の姿を見た俺は目まぐるしく回りすぎて思考停止する頭を抱え、あまりの気味悪さに気絶しそうに 
なるのを必死で堪えた。 
その刹那、気味の悪いその女はこの世のモノとは思えないほど不気味に表情を歪ませ、耳が割れんばかりの 
高笑いを上げはじめた。その瞬間俺は張り詰めていたものが全て切れその場に卒倒した。

次に俺の意識が戻った時、そこは病院のベッドの上だった。 
俺は悪い夢でも見たんだろうか。全ての記憶が鮮明に残る中ぼんやりと覚醒していく意識の果てでそう考える。 
しかしその考えは脆くも崩れ去る。 
「気が付いた?」 
そう言いながら俺の顔を覗き込んできたのは高笑いを上げていた得体の知れない女だ。 
その顔を見た瞬間俺は一歩後ずさった。そして上ずった声で怒鳴ろうとするが声が上手く出ない。