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電車を降りてから、今現在までのアリバイを考える、誰にも会ってねーよ!いや、こいつに会ってるか…。 
いや待て、事故と言う可能性も、俺みたいに雨から身を守ろうとして駅舎に逃げ込んで座ってたら死んじゃいました♪的な…。 
再び男に近付いてミニランタンをつける俺、うわぁ、首に痕が付いてますよ…、なんか縛ったような…。 
事件確定、もうやだ…。

とりあえず自分の身の潔白を示す上手い方法を思いついたら警察を呼ぼう、それがその時の俺の心理だった。 
事件ならすぐに警察呼べよと思うし、死亡時間分かればアリバイなんていくらでも証明できそうな気もするけど 
その時はそこまで頭が回らなかった。下手に拘束されるとバイト行けなくなるなぁ、むしろそんな心配してましたよ。 
考えても考えてもメダパニる俺、その時な、俺の中の悪魔が囁いたんだ、逃げちゃえよ、と。 
死んだ男は赤の他人、俺と縁もゆかりも無い土地、ていうか俺実際無罪、凄く魅力的な提案だった。 
元々乗っていた電車の終着駅まで歩こう、朝には着くはずだ。 
そう思って扉に手をかけた時、雷鳴が聞こえた、ああそう言えば外は大雨でした…。 
再びベンチに腰を下ろす俺、死体とこのまま一晩過ごそうか、明け方に雨があがったら脱出しようか、 
そんなことをもやもやと考えながらボーっとしてた。 
そしたらな、なんとなく臭って来るんだよ、男の臭い、死臭って言うやつ。 
なんかやだなぁと感じる。ホームのベンチに座ってようかと改札をくぐる。 
そしたら向かいのホームに待合室が見えた、こいつはラッキー、と階段を上って向かいのホームの待合室へ。 
電気は消えてたけど、ベンチに座布団とか敷いてあって想像以上に快適な空間だった。 
あの死体が無ければここで朝まで寝てるのに…、マジでそう考える俺がいた。

気がついたら寝てた、がっつり寝てた。 
外はまだ真っ暗なんだけど、業種によっては明け方と呼んでも差し支えないような時刻。 
雨はすっかりあがって都会では見られないきれいな星空が見えてた。 
うわぁやべぇ、と感じつつ橋梁を渡って駅舎に戻る。 
なるべく死体を見ないように駅から脱出しよう、そう考えながら改札をくぐる、そしたらな 
死体が消えていた。 
瞬間蟷螂拳のようなポーズで戦闘態勢に入る俺。 
死体が動き出した?実は生きてた?完全にパニックに陥った俺。 
何をどうしていいか分からず、その瞬間大声で叫んだ、ワー!!とか、ウオー!!とかそんな感じ。 
んでもって歌いだした、涙の数だけ強くなれるよ!!、そんな感じ。 
歌い終わってからようやくベンチに腰を下ろす。 
ゼーゼーと息を切らしてたのが落ち着いて、それから頭が少しずつKOOLになっていった。 
男が座っていた辺りを調べる、シミみたいのがついてた、血?涎?何とも言えない。 
室内の臭いをかいでみる、その時に気がついた。 
昨夜は感じなかった臭いが混じってる、たぶん煙草の臭い、それもまだそれほど時間が経ってない新鮮な感じ。 
灰皿も見てみたけど、濁った水に何本も吸い殻が入っていてよく解らんかった。 
ベンチに座り直し、俺なりに考えてみた。 
男は実は生きていた、ぐっすり眠って、起きた後に煙草を1本吸って去って行った。 
うん、一番理想的な結論だ。 
でも多分違う。死体の監察なんてしたこと無いけど多分あれは死んでたと思う、じゃあ真実は何か? 
誰かが男の死体を夜の駅に隠した、俺が離れの待合室で寝てる間にその誰かが回収した、煙草はその誰かが吸っていた。 
おそらくこんな感じなんじゃないかと思う。

そう考えるとぞっとした、もしも駅舎に留まっていたら、その誰かと遭遇してたわけだ。 
DQN?ヤクザ?外国人?いずれにしてもかなりの確率で殺人犯なわけだ。 
雨の中、夜道を隣駅まで歩いていたら?それもそれで危ない感じがする、その誰かが放っておかない気がする。 
ほんの些細な偶然が重なって、結果的に一番安全な場所に身を隠していた、その時はそう思った。 

結局始発までその駅にいた。 
始発の30分くらい前、駅に入って来たよぼよぼのお婆さんがどれほど心強く見えたことか…。 
昨晩知らない人が死んでましたとよく解らん通報をするわけにもいかず、俺の中では無かったこととして処理されている。 
地元に戻ってから毎日YAHOOでその地方のニュースを検索したが該当した事件は確認されなかった。 
10年以上の月日が流れて記憶もだいぶ風化してるけど、キャンプや野宿をすると思いだす時がある。 
何度か夢にも出てきた、雷鳴が轟く駅、眠っている俺、待合室に男が現れる、叫びながら逃げる、そんな感じ。 
当時すぐに通報すれば、防犯カメラの画像なんかで解決したかもしれない、そう思うこともある。 
しかし、まああれだ、あれは俺の妄想だった、あるいは夢だった、ということにしといて下さい。