YUK_kyotonosakura_TP_V

自分はまっすぐ走っていても、周りの景色や地面がグニャグニャと曲がり 
意思とは関係なく脇道を何度も曲がりながら走っていった 
何度か立ち止まったが、周りの景色はグニャグニャで恐ろしく 
ドドンという太鼓の音が聞こえるとまた走らずにはいられなくなった 

しばらくそれを繰り返すとグニャグニャだった景色が整いだして 
落ち着くと田んぼの中のあぜ道を歩いていた 
地元でも見たことのないくらい大きなトンボが沢山飛び回っていた 
手にはすりこぎのような棒と金属製の円盤を持っていて 
円盤は装飾が為されたうえに紐がついていた 
これは銅鑼に違いない思い、それを叩きながら歩いていった 
とにかく人に見つけて欲しいし、万一熊が出るのも怖かった 
銅鑼は一斗缶を叩いたときのようにガララン、ビシャーンと鳴った 

そうして1時間ほど歩いただろうかという頃 
ついに田んぼの脇の山から天狗の格好をした人が現れた 
さすが京都、本物の山伏がいるのだと思い、助けを求めたところ 
天狗は身振り手振りで言葉を話せないことを伝えてきたので 
残念に思いつつも、無言の行という修行があると 
以前マンガか何かで見たことがあったので、それだと思って納得した

天狗に従って小川の土手に進むと握り飯を差し出してきたので食べた 
食べ終わると今まで携えてきた銅鑼がなくなっているのに気づいたが 
無言の行の最中であるのを思い出したので何も問わなかった 
それまでの疲れがどっと出て、満腹感も相俟って眠くなってくると 
天狗が自分を背負ってくれたので、そのまま寝入ってしまった 

目が覚めると天狗の姿はなく、公園のベンチに座っていた 
近くに橋が見え、人が多く歩いているのを見て安心したが 
自分がいま迷子なのを思い出し、場所を尋ねると渡月橋という 
渡月橋は午後のスケジュールに入っていたのを覚えており 
このあたりにいれば誰かが見つけてくれるだろうか 
あるいは交番を探すか電話を借りようかなどと思案していると 
ちょうど警官が歩いてきたのが見えたので助けを求めた 
それから後のことはよく覚えていないという

同じ班の生徒によれば、女生徒は急にいなくなったのであり 
狸やコロッケの匂いなどに心当たりはないという 
近くを歩いていた別の班の生徒や他の通行人も同様であった 
警察の捜索でも怪しい山伏や銅鑼は発見されなかった 

山伏の中にはこの話を聞いて、何々様の祟りだとか 
臨死体験により彼岸を見てきたのだとか言う者もいたが 
医師によれば、女生徒の語った内容は誘拐のショックで 
だいぶ歪められているとのことで、それが尤もなことであろう 
だが本当にこれは誘拐事件だったのだろうか 
話を聞かせてくれた関係者はこれを神隠しといって憚らなかった 

この未成年者略取の一件は既に時効が成立した 
女生徒は現在20代で、地元の菓子メーカーに勤めている