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目を覚ますと、木目の天井があった。その視界に、じっちゃんと両親が入ってきた。両親は安堵の表情で、「よかった、よかった」と呟いている。 
一方、じっちゃんは鬼の剣幕のままだった。 
じっちゃんは両親に席をはずすよう言い、渋々両親は部屋から出ていった。

俺は、正座させられ、じっちゃんと向かい合う形になった。 
どうやら説教の時間だ。 

と、思っていたら、じっちゃんは唐突に話し始めた。 

「わしがお前さんぐらいの時にも、一度同じ経験をしたことがある。」 

ここからはじっちゃんの経験談を語る。

じいちゃんが子供の頃、ちょうど正月のこの時期に、友人と山に遊びにいって、岩を見つけた。この友人をB君とする。 
じいちゃんとB君は岩の下に何かあると思い、俺と同じように掘り始めた。 

辺りに響く鈴の音、そして手まり歌のような声。 

「 アターヌサキー、ワーセテ、バタクサ、バタクサ 」 

今でも忘れられない、女の人の声。 

そして、岩ノ下は、 

空洞だった。洞窟だった。 

洞窟は真っ暗のはずが、何かの明かりに照らされてほんのり薄暗い様子だった。 
立ちこめる異臭。動物が腐ったような、二人は吐き気を催しながらも、掘った穴から顔を覗かせた。

2、3メートル先に底が見えた。 
底は斜面になっていて、手前から奥に向かうにつれて深くなっている。 
じぃちゃん「くっさいなー」 
B君「斜底(ななぞこ)になっとるな。」 
B君がそう言った時だった。 

「ナケ、ナケ、ナケ、ナケ、ナケ、ナケ、ナケ、ナケ、ナケ、ナケ、ナケ、ナケ、ナケ、ナケ、ナケ、ナケ、ナケ、ナケ」 


甲高い声と共に、何かが斜めの底を這い上がってくるのがわかった。 


堪えきれず、B君が泣き出した。 


「バタクサ、バタクサ、バタクサ、バタクサ」 

じいちゃんは外から女の人の声がすると思って顔をあげると、黒い割烹着を着た人の形のなにかが二人の周囲を取り囲んでいた。 
顔は、黒クレヨンの落書きみたいにグシャグシャと塗りつぶされていて見えなかった。

「バタクサ、バタクサ、バタクサ、バタクサ、バタクサ、バタクサ」 

相変わらずB君は泣いている。じっちゃんは恐怖で全く身動きがとれなかったという。 

「ナイタ、ナイタ、ナイタ、ナイタ」 
穴の中からはバケモノの甲高い声が近づいてくる。 

黒い割烹着のヒトガタは、サワサワとB君をさわり始めた。 

「バタクサ、バタクサ、バタクサ、バタクサ、バタクサ、バタクサ、バタクサ、バタクサ、バタクサ」 

「ウァアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」 

じいちゃんは叫んだ。フッと体の力が抜け、動けるようになっていた。 
じいちゃんは、B君を置いて、一目散に、逃げ帰った。

その後、B君は帰ってこなかった。 
親にこの事を話すと、今日あったことは絶対に誰にもいうなときつく言われたそうだ。 

村をあげて捜索したがB君は見つからなかった。 

そして、じいちゃんはそのバケモノの正体について、曾祖父から伝え聞いた。 

名前は言ってはいけない。口にするだけで引き寄せてしまう。だから、わしらは「御業 (ゴギョウ)様」 
と言っておる。ゴギョウ様はこの辺りでは、仏様と同じ扱いを受けており、豊作の吉凶は全てゴギョウ様次第だったんじゃ。