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私はと言えば、この分譲地については、私自身が事前調査を行って法務局の古地図等を閲覧しても過去に墓場や刑場等だったという利用形態も見当たらなかったので、皆大袈裟だなぁとしか思っていませんでした。

佐藤君の車に乗せて貰って現地に到着するなり、佐藤君は「うわっ!マジで空気重いっすよ!ホントにヤバイっすよここ!」と連呼していましたが、それには構わず広告掲載用の写真を撮っておこうと早速外観チェックに取り掛かりました。 

奥まった所に本地のある敷地形態だけあり、各方位に建つ建物に取り囲まれていて、他の区画に比べると日当たりは良好とは言えない場所なので、これなら確かに不気味な雰囲気と言われても仕方ないなぁと思いました。

続いて、玄関脇の雨樋に吊るしてあるキーボックスから鍵を取り出そうとしたところ、玄関扉が開いていることに気付きました。 
誰かが鍵を閉め忘れたか、それとも先客がいるのか? 
そんなことを考えながらごめんくださいと玄関扉を開けてみました。 

入口から見る間取りは、玄関を入ってすぐ右側に直線上の階段があり、その左隣の廊下の先に居間に続く扉があるという家でした。 
居間に続く扉は閉まっており、階段途中の採光窓から陽は差しているのですが、それでもやはり薄暗い家といった印象を持ちました。

佐藤君は後ろから「階段を上がった先がヤバイ!」と騒いでましたが、それは奥の納戸で自殺があったからって先入観でしょと流して玄関内に足を踏み入れました。 

踏み入れた瞬間、件の“キン!”という音が鳴りました。 
佐藤君は「もうこれ以上進めません」とそこでギブアップしてしまいました。 
私はと言えば、不意打ちだったので「えっ!?」と一瞬ビックリしてしまいましたが、先客もいるかもしれないし、その人の発した音かもしれないということで、構わず上がっていきました。

ひとまず、居間へ続く扉を開けて1階の様子を窺ってみます。 
ちなみにM宅の間取りは3LDK+納戸で、1階には居間とダイニングキッチン、トイレ、洗面所、風呂があり、2階には3部屋+納戸という造りになっています。 
居室を2階に集中させた間取りだけあって、1階のLDKスペースは25畳程度あり、家具も置かれていないその薄暗い空間はガランとしていて広く感じました。 
おそらく水道を止めている為だと思いますが、下水臭が上ってきていたので、換気の為に居間とダイニングのシャッターと窓を開けてみたところ、入ってきた日差しで少し明るさを取り戻した室内はきちんと清掃もされていて綺麗に保たれているなぁと思いました。

続いて2階へ行こうと玄関に戻ったところ、佐藤君は相変わらず階段の先の方を見て「ヤベーよヤベーよ」とブツブツ言って待っていました。 
「おまえは出川かw」と笑い飛ばしながら一人階段を上がって行く私。 

階段を昇る途中、例の“キン!”という音がまた鳴りました。 
音の出処は階段や床の軋みの音等ではなく、何と言うか、空間で鳴っているように思えました。 
鉄骨造の家は壁内部の鉄骨が金属ストレスでたまに鳴るということは知っていたのですが、「木造の家も同じように鳴るのかな?木材が乾燥割れする音ならキンじゃなくてパキッとかだよなぁ…」などと考えながら2階に到着。

階段を昇り切った真正面に例の納戸があるので、“キン!”と同様にいきなりは勘弁だなぁと思っていたのですが、そこにいたのはスーツ姿の田中さん(売主業者の社員さん)でした。 

「あれ、田中さん」と声をかけると、「あぁ、清水さん(←私・仮名)、下の方から声は聞こえてたから、誰か来たとは思ってたんですが、清水さんでしたか、お疲れ様です」とのこと。 

「真っ暗な中から現れられたらビックリしますよ」と笑いながら言うと、 
「驚いちゃいました?この家が売れ残ったままだと他の区画も一向に売れそうにないので、せめて見栄えは良くしようと定期的に清掃に来ているんですよ」と笑いながら返されました。

まぁ、3年間も売れ残ってしまっては、担当者としては上司からも責められて大変だろうなぁと同情しつつ、「内観写真を撮りたいのでシャッター開けますね」と申し出ると、「じゃあ掃除も終わったところなので私は失礼しますね」と言い、1階へ降りていきました。 

その後、私は各部屋のシャッターと窓を開けて換気しつつ写真を撮って回りました。 

件の自殺のあった何度を含めどの部屋も1階同様に清掃されており、さして変わった様子もなく、デジカメに表示される写真にも何か変わったものが写るというわけでもなく、拍子抜けするほど何も起こらないまま内見を終えて1階へ降りていきました。

1階玄関では相変わらずの怯えた様子の佐藤君がいたのですが、降りていくなり、「大丈夫でした!?てか、清水さん2階で誰と話してたんです?」とのこと。 

私「ん?佐藤君どっか行ってたの?」 
佐藤君「いや、ずっとここに居ましたよ、清水さん誰かと話してるなぁと思って」 
私「へ?田中さん降りてきたでしょ?」 
佐藤君「え?誰も降りてきてないですよ!」 
私「またまたぁ!そうやってビビらせようとしてるんでしょ?」 
佐藤君「いや!マジですって!直階段だし、降りてきたら気付きますって!てか、清水さん気付いてます?俺達玄関入った時、靴とか無かったじゃないですか!なのに清水さん誰と話してるんだろうって…」

そう言うや否や、佐藤君が視線を上に向けて、「てか清水さん!いるいるいる!上にいるから!」と叫んで家から飛び出していきました。 

ゾクッとしたところで追い討ちをかけるように“キン!”と鳴り、うわぁ…となって私も外に飛び出しました。 

車に戻って佐藤君を問いただしたところ、2階の踊り場から階段を降りるのではなく、私の頭の真上を田中さんや見知らぬ何人かが玄関側の方へ宙を歩くように通り過ぎていき、突き当たった壁の所で消えていったとのことでした。

佐藤君いわく“キン!”の音の正体は彼等が壁に消える時に発する音なんじゃないかとのこと。 

すぐさま売主業者に電話したところ、田中さんは8月にこの現場からの帰りに交通事故で亡くなっていたこと、それでM宅を担当できる人員が足りなくなってしまった為に私の会社に委託したのだということを聞かされました。 

その後、私の身の周りで何かが起こったということはないのですが、売主業者にも田中さんにも申し訳ないのですが、その現場を売っていく自信はなくなりました。 

ちなみにその現場はまだ買い手がついていないので、広告媒体で埼玉県内の敷延物件を見かけた際は用心してください。