012kazukihiro_TP_V

お爺さんが、連れと一緒に山で猟をしていた時のことだ。
いきなり遠くから「助けて!」と甲高い女性の悲鳴が聞こえた。

慌てて答えようとするお爺さんを制した連れは、ひどく緊張した顔をした。
強引にお爺さんを連れて、すぐさま走って山を下り始めたそうだ。

背後からは引き続いて「助けて!」という声が繰り返し聞こえてきた。
助けを求める人を見捨てるのかと、お爺さんはしばらく葛藤したというが、
山を下るうちに奇妙なことに気がついた。
助けてという叫びが、段々大きくはっきりと聞こえるようになっていたのだ。

自分たちが走る以上の速さで、叫び声の主は自分たちに近づいてきている!
二人は必死に足元の悪い山道を走ったのだそうだ。

唐突に開けた場所に出た。
誰が安置したのか、そこにはお地蔵様が何個も並ぶ小さな祠があった。
どうやら連れの猟師は、最初からここを目指して走っていたらしい。
彼らが足を止め一息入れた途端、背後の茂みから、奇妙に間延びした声が聞こえた。

 たぁぁすぅぅけぇぇてぇぇぇぇ・・・

思わず銃を握り締める二人の耳は、何かが遠ざかって行く音を捕らえていた。
それ以降、助けてという叫びは聞こえなくなった。

連れがぽつりと言う。

 あれは鬼だ。
 この山に伝わる昔話で、助けに来た人を襲って喰らう鬼の話があった。
 声が聞こえた途端、これが熱くなったんで危ないとわかったんだ。

そう言って連れが出したお守りは、かすかに焦げて燻っていたという。
無事に山を下りられるように、その祠に祈った。
言い伝えによるとそこは、その山の鬼を鎮めるために建てられたのだという。
そのおかげか、それ以上の怪事には遭わず下山できた。
二人ともしばらくは、その山に近寄らなかったということだ。

彼の息子(知り合いのお父さん)が町に出て定職に就くと言った時、まったく反対
しなかったのも、この経験のためだったらしい。
あんな物に捕まったら洒落にならないからな。
そう言ってお爺さんは煙草をふかしたのだそうだ。