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子供の頃山の中に住んでた。家は山の斜面で谷を挟み反対側の山には過疎が進み誰も住んでない部落が見え、はるか遠く東には富士山が圧倒的な存在感でそびえている。

ある夏の夜遅く、母親に起こされた。向かいの山を見ろという。眠い目を擦りながら言うとおりにした。夜空には無数の星と眩しいほどの月。濃いブルーの静かな世界が神秘的だった。

暗闇に目が慣れてきた。すると、向かいの山の中腹に弱い光を見つけた。一つではない。10ほどの光の列がゆっくり動いている。時折木の影に隠れチラチラと…。人が歩く早さぐらいに見えた。

「何…あれ?」声をひそめて聞く。「狐の嫁入りだよ。」と教えてくれた。母親は随分前から見ていたようだ。
人が通る道なんかないことは知っていた。変わった山歩きが趣味でもまさかこんな夜中に歩く人はいないだろう。やがて、一つまた一つと光が消えていく。不思議なもんだなと光が消えるまで母親と眺めていた。

今は町に下り、あれほどの静寂さはまず体験出来ない。月夜の山は本当に神や天狗の存在を感じさせる。山に泊まる機会があったらぜひ、そっと外を覗いてみてください。不思議なものが見られるかも。